2019-01-01から1年間の記事一覧

河鍋暁斎 その手に描けぬものなし

「河鍋暁斎 その手に描けぬものなし」サントリー美術館 サントリー美術館で今月末までかかっている河鍋暁斎の展覧会。休日に行ったが、そこそこに人は来ていて、けっこう人気。それはそうだろう。 展示スペースの制約があるのか、それほど大きな作品は少ない…

奇想の系譜

「奇想の系譜」江戸絵画ミラクルワールド、東京都美術館 東京都美術館にかかっている、江戸絵画の展覧会。岩佐又兵衛、狩野山雪、伊藤若冲、曽我蕭白、長沢芦雪、歌川国芳、白隠慧鶴、鈴木其一が並んでいる。これらの人々に注目した最初期のひとりが辻惟雄で…

学校の戦後史

木村元『学校の戦後史』岩波新書、2015 学校の「戦後史」となっているが、戦前期の学校制度の成立以後の事情にも触れられているので、日本における学校の歴史と社会、みたいな本になっている。 統計が多く出ており、これは非常にありがたい。学校制度は明治…

おどろきの中国

橋爪大三郎、大澤真幸、宮台真司『おどろきの中国』講談社現代新書、2013 橋爪、大澤、宮台の社会学者3人による中国についての鼎談。 中国がどういう「原理」で動いているのかを説明する第1部と、毛沢東時代を考察する第2部は、非常に勉強になった。鼎談本な…

バレエとダンスの歴史

鈴木晶(編著)『バレエとダンスの歴史』平凡社、2012 タイトルの通りで、これは大学の舞踊論の教科書として書かれた本。しかし、歴史としてはこれでよいが、舞踊そのものの映像がないと、これだけではわからない。 やはりビデオで見ながら読むもので、図版…

びわ湖ホール ジークフリート

ワーグナー「ジークフリート」 ジークフリート:クリスティアン・フォイクト ミーメ:高橋 淳 さすらい人:ユルゲン・リン アルベリヒ:大山大輔 ブリュンヒルデ:ステファニー・ミュター 沼尻竜典指揮、京都市交響楽団 びわ湖ホール、2019.3.3 これは先週、…

人類進化の700万年

三井誠『人類進化の700万年 書き換えられる「ヒトの起源」』講談社現代新書、2005 ちょっと前の本だが、おもしろかった。著者は読売新聞の科学記者。この分野、よく知らなかったので非常に勉強になった。 一番わかっていなかったことは、ヒトの進化は単線的…

したがるオスと嫌がるメスの生物学

宮竹貴久『したがるオスと嫌がるメスの生物学 昆虫学者が明かす「愛」の限界』集英社新書、2018 著者は生物学者。対象は、昆虫の生殖。非常におもしろい本で、著者の研究対象を通じて、生物の交配行動がわかりやすく説明されている。 著者の主要な研究対象は…

太宰治『鴎』 1940年に書かれた短編。小説だが、半ばはエッセイのようでもある。ほとんど自分語り。兵隊さんの書いた小説とか、酒のこと、飲み屋のこと、いろいろ材料はちりばめてあるが、ほとんどは、周りに乗り切れない自分のこと。 だいたい「芸術家」と…

貨幣

太宰治『貨幣』 お金ネタ、戦時中ネタの短編。語り手は「百円札」で、いろんなところを回っていくという設定。この設定、昔子供の頃に読んだ小説に出てきたと思ったが、こちらの方がどう考えても先にかかれている。 百円札が回り回って、闇屋と大尉殿の間で…

禁酒の心

太宰治『禁酒の心』 これはエッセイ。酒にかこつけて、やはり自分の戯画。 もちろん禁酒など実際にはしていないので、とにかく毎日酒をのみたいばかり。酒を求めて行列する(このエッセイは戦争直前のもの)のが嫌なのだが、もっと嫌なのは、飲み屋のやりと…

きりぎりす

太宰治『きりぎりす』 画家が主人公の短編。語り手は画家の妻。 語り手はいい家のお嬢様。貧乏画家と見合いして、他の条件のいい男を振ってヨメにいくのだが、お嬢様、ガチの芸術家がよかったので貧乏でも楽しかった。ところが夫がだんだん売れだして、金も…

魚服記

太宰治『魚服記』 怪奇譚。茶店の女の子が、水に飛び込んだら変身したという話。 しかしこの話、前半の茶店での女の子の生活と、終わりで女の子が水に飛び込む話がうまくつながっておらず、なんで女の子が変身してしまうのかがよくわからない。落ちがあまり…

チェーホフ試論

神西清『チェーホフ試論 -チェーホフ序説の一部として-』 神西清のチェーホフ評論。これはよくできている。 チェーホフ作品のほとんどを訳しているのだから、よくわかっていて当然といえば当然だが、チェーホフの人と作品を両方よく理解しているから書ける…

折りたたみ北京

ケン・リュウ(編)、中原尚哉ほか訳『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』早川書房、2018 中国SF短編集。非常におもしろい。 アンソロジーで、七人の作家の13編と、エッセイ3編が載っている。 一番おもしろかったのは、劉慈欣「円」「神様の介護係」。…

黄金風景

太宰治『黄金風景』 これは戦前の作。1939年発表とある。ネタは、昔の女中。 昔は鈍で、バカにしか見えなかった女中の消息をいきなり主人公に告げる「お巡り」(この書き方は咎められなかったのか?)。バカ女中に会いたくない主人公は、お巡りとともに訪ね…

おしゃれ童子

太宰治『おしゃれ童子』 これも、太宰治の自分ネタ。おしゃれ童子とはもちろん自分のこと。中学生の時から、おしゃれに打ち込み、金はあるから、着るものも自分であつらえている。そして、鳶の格好をむりやりしようとして、お店の人に今どき、そういう服はな…

おさん

太宰治『おさん』 戦後の話。夫がよそで浮気したあげく、浮気相手と心中するという流れを妻の立場から描くというもの。半分気持ち悪い。 夫は革命を振り回して、雑誌記者と出来てしまい、相手を妊娠させてしまって、心中。夫は状況に振り回される、非常に弱…

鬼桃太郎

尾崎紅葉『鬼桃太郎』 尾崎紅葉の、桃太郎パロディ。 桃太郎に復讐しようという鬼の老夫婦のところに、苦桃が流れてきて、そこから苦桃太郎が誕生。苦桃太郎は、豪傑で、狒々、狼、毒龍をおともに、日本を征伐しに行くのだが・・・という話。 この話、絵本に…

黄村先生言行録

太宰治『黄村先生言行録』 暇な隠居が、鯉を集めるのに飽きて、山椒魚を飼おうとする話。 ご隠居、自分の暇にまかせて、他人を振り回そうとするだけのつまらない人物で、最後はかなりやっつけられている。これは他の小説か、小説家と何か関係があって、その…

原爆を見た建物

山下和也、井出三千男、叶真幹『原爆を見た建物』西田書店、2006 原爆投下時にあった広島の建物図鑑のような本。この本の定義では、被爆建物とは、爆心地から半径5キロ以内でなんらかの形で残った建物のこと。 原爆ドームはともかくとして、他にどういう建物…

駆込み訴え

太宰治『駆込み訴え』 これはよくできている話。主人公はイスカリオテのユダ。ユダがイエスのことを後から述懐するという形式。 ユダが、イエスに惚れ抜いているにもかかわらず、また他の弟子たちをまったくバカにしており、実際にイエスの周りのことを切り…

ピカレスク 太宰治伝

猪瀬直樹『ピカレスク 太宰治伝』小学館、2018 電子版になったものを買ったが、これは傑作。表題は、太宰治その人が悪人であり、彼の生涯そのものがピカレスク・ロマンだったということ。 弱い人間で、だから3度心中し、5度自殺を企て、最後に死んでしまった…

非リア王

カレー沢薫『非リア王』講談社文庫、2019 カレー沢薫の新刊。これはコラムをまとめて本にしたもの。しかし一つのコラムではなく、「非リア王」「IT用語」「時流漂流」の三つのコラムを無理やり押し込んでいる。まあ、なんでもいいけど。 コラムそのものは、…

評伝 小室直樹(上)

村上篤直『評伝 小室直樹』(上)、ミネルヴァ書房、2018 大冊。上下2巻で、1500ページくらいある。辞書みたい。 中身は最高におもしろい。小室直樹、著作は読んでいたが、「変人」ということくらいしか知らなかった。ただの変人ではなく、破天荒な人。 若い…

東京八景

太宰治『東京八景』 これは太宰のダメ人間っぷりが(またまた)露骨に出た作品。というか、この小説に出てくる「H」は、最初の妻、小山初代だろう。 原稿のことといい、失敗した新聞社への就職といい、大学を卒業できないことといい、ダメダメだらけ。そして…

補給は大事!

LELF chem125『補給は大事! 海上護衛のお話その2』2018 これは薄い本。その2ということなので、前に同様の本が出ているはずだが、それは不知。ほとんどが図表。 基本的にわかるのが、主要目的港、船団数、隻数、トン数。あとは航路ごとに、投入船舶、…

本居宣長

田中康二『本居宣長』中公新書、2014 これは宣長研究者による本居宣長の伝記。宣長の生涯を、著作とともに追いかけている。 宣長の思想を一言で取り出すというようなことは不遜なことだと言っていて、宣長の著作をひとつひとつ検討して、その主張や方法を説…

100歳の台湾人革命家・史明 自伝

史明(田中淳構成)『100歳の革命家・史明自伝 理想はいつだって煌めいて、敗北はどこか懐かしい』講談社、2018 著者は1918年台湾生まれ。もう101歳。台湾の大地主の家に生まれ、台北一中を中退して、早稲田高等学院から早稲田の政経を卒業。そこで共産党に…

江戸の思想史

田尻祐一郎『江戸の思想史 人物・方法・連環』中公新書、2012 江戸期の思想を網羅的に概観した本。主要な思想家の著作が一通り概観されているほか、教派神道などの民衆宗教にも言及されているし、もちろんナショナリズムとの関連についても触れられている。 …