駆込み訴え

太宰治『駆込み訴え』


これはよくできている話。主人公はイスカリオテのユダ。ユダがイエスのことを後から述懐するという形式。

ユダが、イエスに惚れ抜いているにもかかわらず、また他の弟子たちをまったくバカにしており、実際にイエスの周りのことを切り回しているのはユダであるにもかかわらず、イエスが自分をほめてくれない、自分に振り向いてくれないことへの複雑な感情を連綿とつづっている。裏側からのラブレター。

結局ユダの恋は成就せず、ユダは銀30枚でイエスを売ることになるのだが、それも最後までぐずぐず言っている。この銀30枚も、ある意味イエスへのラブレターのようなもの。ラブレターといっても、イエスに直接出しているのではなく、ユダがイエスに振られたことへの腹いせのようなものだが、この恨み言もいいと思う。