#小説

太宰治『鴎』 1940年に書かれた短編。小説だが、半ばはエッセイのようでもある。ほとんど自分語り。兵隊さんの書いた小説とか、酒のこと、飲み屋のこと、いろいろ材料はちりばめてあるが、ほとんどは、周りに乗り切れない自分のこと。 だいたい「芸術家」と…

貨幣

太宰治『貨幣』 お金ネタ、戦時中ネタの短編。語り手は「百円札」で、いろんなところを回っていくという設定。この設定、昔子供の頃に読んだ小説に出てきたと思ったが、こちらの方がどう考えても先にかかれている。 百円札が回り回って、闇屋と大尉殿の間で…

きりぎりす

太宰治『きりぎりす』 画家が主人公の短編。語り手は画家の妻。 語り手はいい家のお嬢様。貧乏画家と見合いして、他の条件のいい男を振ってヨメにいくのだが、お嬢様、ガチの芸術家がよかったので貧乏でも楽しかった。ところが夫がだんだん売れだして、金も…

魚服記

太宰治『魚服記』 怪奇譚。茶店の女の子が、水に飛び込んだら変身したという話。 しかしこの話、前半の茶店での女の子の生活と、終わりで女の子が水に飛び込む話がうまくつながっておらず、なんで女の子が変身してしまうのかがよくわからない。落ちがあまり…

折りたたみ北京

ケン・リュウ(編)、中原尚哉ほか訳『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』早川書房、2018 中国SF短編集。非常におもしろい。 アンソロジーで、七人の作家の13編と、エッセイ3編が載っている。 一番おもしろかったのは、劉慈欣「円」「神様の介護係」。…

黄金風景

太宰治『黄金風景』 これは戦前の作。1939年発表とある。ネタは、昔の女中。 昔は鈍で、バカにしか見えなかった女中の消息をいきなり主人公に告げる「お巡り」(この書き方は咎められなかったのか?)。バカ女中に会いたくない主人公は、お巡りとともに訪ね…

おしゃれ童子

太宰治『おしゃれ童子』 これも、太宰治の自分ネタ。おしゃれ童子とはもちろん自分のこと。中学生の時から、おしゃれに打ち込み、金はあるから、着るものも自分であつらえている。そして、鳶の格好をむりやりしようとして、お店の人に今どき、そういう服はな…

おさん

太宰治『おさん』 戦後の話。夫がよそで浮気したあげく、浮気相手と心中するという流れを妻の立場から描くというもの。半分気持ち悪い。 夫は革命を振り回して、雑誌記者と出来てしまい、相手を妊娠させてしまって、心中。夫は状況に振り回される、非常に弱…

鬼桃太郎

尾崎紅葉『鬼桃太郎』 尾崎紅葉の、桃太郎パロディ。 桃太郎に復讐しようという鬼の老夫婦のところに、苦桃が流れてきて、そこから苦桃太郎が誕生。苦桃太郎は、豪傑で、狒々、狼、毒龍をおともに、日本を征伐しに行くのだが・・・という話。 この話、絵本に…

黄村先生言行録

太宰治『黄村先生言行録』 暇な隠居が、鯉を集めるのに飽きて、山椒魚を飼おうとする話。 ご隠居、自分の暇にまかせて、他人を振り回そうとするだけのつまらない人物で、最後はかなりやっつけられている。これは他の小説か、小説家と何か関係があって、その…

駆込み訴え

太宰治『駆込み訴え』 これはよくできている話。主人公はイスカリオテのユダ。ユダがイエスのことを後から述懐するという形式。 ユダが、イエスに惚れ抜いているにもかかわらず、また他の弟子たちをまったくバカにしており、実際にイエスの周りのことを切り…

東京八景

太宰治『東京八景』 これは太宰のダメ人間っぷりが(またまた)露骨に出た作品。というか、この小説に出てくる「H」は、最初の妻、小山初代だろう。 原稿のことといい、失敗した新聞社への就職といい、大学を卒業できないことといい、ダメダメだらけ。そして…

村の学校

ドーデ(鈴木三重吉訳)『村の学校』 これ、青空文庫では「実話」と書いてあるのだが、読んでみるとどうも実話っぽくはなく、明らかに「最後の授業」の習作っぽい。「ハメル先生」が辞めたあとにきたドイツ人教師の「クロック先生」の話。 「最後の授業」が…

わが心の女

神西清『わが心の女』 これは神西清の短編。この人、創作もしていたのだ。 ロシアはちょっとした創作のツマにされているだけだが、ちょっとだけそれっぽい国として出てくる。しかし、この作品そのものは、あまりうまくいってはいない。服を脱いでいくのでは…

女人訓戒

太宰治『女人訓戒』 女が何々を食べたり身につけたりすると、その何々に成り代わったり、女にその性質が身についたりする、というバカ話。 辰野隆の本に出てくる話として、うさぎの目を人間に移植したら、移植された女は猟師を恐れるようになった、という話…

不周山

魯迅『不周山』 これはよくわからない作品。注がないとムリ。 女媧は神話時代の中国の神様で、人間を作ったというものなので、そういう話になっているが、途中でいきなり戦争が起こったり、禁軍がやってきたりする。個別の名辞の意味がわからないとダメで、…

狐憑

中島敦『狐憑』 これは南洋のどこかのお話。漢学、まったく関係はない。しかしおもしろい。 主人公のシャク、ただの平凡な男だったのが、狐が憑いて、物語を語るようになった。最初は神のご託宣みたいなことだったのが、話がおもしろいので創作でもいいとい…

女類

太宰治『女類』 これは傑作。主人公が、屋台の主人の女将に惚れられてしまい、周りの男達に「あれはやめとけ」といわれる。その時に言われる言葉が、「人類と猿類ではなく、男類、女類、猿類がいるんだ」というもの。 結局、女は自殺。あいかわらずだ。そし…

羅生門

芥川龍之介『羅生門』 ひさしぶりに読んだ。やはりこれは名作。 主人公の下人、死体の髪を抜く老婆に道徳的な怒りを燃やしているが、これまでどうやって食べていたのか、よくわからない。髪を抜かれている死体になった女は、生きている時には蛇の切り身を干…

風波

魯迅(井上紅梅訳)『風波』 これも、魯迅の革命後の農村風景を描いた作。注はないので、場所はわからない。 作中の村には特別な習慣があり、子供が生まれると秤にかけて、その斤目で名前をつける。だから「七斤ねえさん」とか、「七斤」とかが登場人物。ほ…

楹虚

中島敦『楹虚』 使っている漢字変換ソフトで、「えい」(木偏のないもの)が出ない・・・。したがってタイトルがまちがっている。 春秋時代の衛の国、衛の霊公の子、荘公のおはなし。霊公もとんでもないが(この正室が孔子を誘惑したとかいう南氏)、この荘…

村芝居

魯迅『村芝居』 田舎に芝居一座が訪ねてくる話。これはどうなっているのか、客は船で芝居を見に行くことになっている。おそらく川岸に適当に幕でも張って舞台をしつらえて、客は川に浮かべた船で見ているのだろう。 日本の本で中国の芝居は、むやみに叩いた…

端午節

魯迅『端午節』 これも、「頭髪の故事」と似たような題材。ただし、こちらは夫婦関係というか、男女の地位がネタ。 主人公はこれも中学の先生だが、妻に対して「おい」としか言わない。その主人公が、給料を持って帰らないのに、妻に対して節句の払いをしろ…

頭髪の故事

魯迅『頭髪の故事』 これは掌編。魯迅が中学の校長をしていたときのことから引いたエピソードらしい。つまり私小説。 主人公は、双十節のことを語っているので辛亥革命よりあとのこと。革命よりそれほど時間がたっていない時に設定されている。しかし主人公…

孔乙己

魯迅(井上紅梅訳)『孔乙己』 ずいぶん前に読んでから、ひさしぶりに読んだ。 語りては酒屋の小僧、見かけはのろまだが、観察力はある。上客を通す座席と安い客を通す立席があり、孔乙己は立席で唯一の長袖者。読書人といっても、秀才にもなれておらず、酒…

星が吸う水

村田沙耶香『星が吸う水』講談社、2013 表題作の「星が吸う水」と「ガマズミ航海」の2篇入っている。個人的には、「星が吸う水」のほうが好き。 主人公はいちおう「女」なのだが、性欲のありかたは、男のよう。「抜きたい」とか言っている。だからといって、…

コンビニエンスストア様

村田沙耶香『コンビニエンスストア様』文藝春秋、2016 これは電子書籍で、『ラヴレターズ』所収の掌編だけ切り出したもの。「コンビニへのラブレター」という形式で、『コンビニ人間』が出たので、それに追加のような形で書かれたのだろう。 著者にとって、…

コンビニ人間

村田沙耶香『コンビニ人間』文春文庫、2018 バカ売れしているという『コンビニ人間』、あっと言う間に読めた。やはり傑作。 村田沙耶香自身、本当に最近までコンビニバイト一直線で暮らしてきた人。究極的に機械的な場所。作者はそれが好きな人。 主人公とな…

転生!太宰治

佐藤友哉『転生!太宰治 転生して、すみません』星海社、2018 どこかに書評が出ていて、ちょっとおもしろそうだったので読んでみた。これはけっこうおもしろい。 いきなり太宰治が現代に転生、自分のことを拾ってくれた女といきなり心中(両方、生き残る)と…

授乳

村田沙耶香『授乳』講談社文庫、2010 これはちょっと前の村田沙耶香の作品。「授乳」「コイビト」「御伽の部屋」の3作入り。 いまと変わらぬ作風で、完全に頭がおかしい。一番好きなのは、「御伽の部屋」。著者は、性欲があっても異性がいらない世界を書き綴…