#ノンフィクション、エッセイ

禁酒の心

太宰治『禁酒の心』 これはエッセイ。酒にかこつけて、やはり自分の戯画。 もちろん禁酒など実際にはしていないので、とにかく毎日酒をのみたいばかり。酒を求めて行列する(このエッセイは戦争直前のもの)のが嫌なのだが、もっと嫌なのは、飲み屋のやりと…

チェーホフ試論

神西清『チェーホフ試論 -チェーホフ序説の一部として-』 神西清のチェーホフ評論。これはよくできている。 チェーホフ作品のほとんどを訳しているのだから、よくわかっていて当然といえば当然だが、チェーホフの人と作品を両方よく理解しているから書ける…

非リア王

カレー沢薫『非リア王』講談社文庫、2019 カレー沢薫の新刊。これはコラムをまとめて本にしたもの。しかし一つのコラムではなく、「非リア王」「IT用語」「時流漂流」の三つのコラムを無理やり押し込んでいる。まあ、なんでもいいけど。 コラムそのものは、…

時の流れ

鈴木大拙『時の流れ』 これは時間についてのエッセイ。時間はいつも流れていると見えているが、川の流れのように時間を外から眺めることはできないので、人間が時間を見ていると思っているのは、じつは時間の干物だという。 それでも人間の中には、「天上天…

僧堂教育論

鈴木大拙『僧堂教育論』 タイトルのままの内容、つまり僧堂教育をどのようにすべきかということが書いてあるのかと思ったらそうではなく、僧堂教育はありがたいということだけが書かれていて拍子抜けした。 著者も日本禅仏教など、ほとんど滅亡寸前であるこ…

留魂録

吉田松陰『留魂録』 吉田松陰の遺書。冒頭に「身はたとい 武蔵の野辺に朽ちぬとも 留め置かまし 大和魂」の辞世がある。 しかし内容は、ちゃんと注がないとわからないもの。中国の忠義の士くらいはいいとして、遺書だから具体的な人名や物事が出てきていて、…

男の子を見るたびに「戦争」について考えます

小川未明「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」 これもエッセイだが、よりアホっぽい。 内容は今生きている人でもいいそうなこと。戦争反対、男の子のことが心配だというもの。それに加えて、第3インターナショナルやキリスト教が平和の助けになる…

書を愛して書を持たず

小川未明『書を愛して書を持たず』 小川未明の本エッセイ。しかしこの文章、要するに蔵書は持たないと言っている。今のように図書館やら何やらにはあまり頼れない時代だが、だったら本は持たないというのはどうなのか。 金がなかった頃は蔵書の一部を売って…

書狼書豚

辰野隆『書狼書豚』 仏文学者の辰野隆のエッセイ。「悉く書を信ぜば書なきに如かず」の出典を知りたかったのだが、それはわからず、長谷川如是閑が、これをもじって、「悉く書を信ぜざれば書あるに如かず」と言っているということだけわかった。辰野隆は、「…

戦後合格者

坂口安吾『戦後合格者』 坂口安吾の日本共産党についてのエッセイ。初出は1951年。 武装闘争路線の初期に書かれたもので、思い切り日共を批判している。無内容、他に対する不協力などなど、何を作る努力もせず、他人の作ったものを壊そうとするばかり、とい…

翻訳のむずかしさ

神西清『翻訳のむずかしさ』 ロシア文学翻訳者として著名な神西清のエッセイ。はじめに、韻文の翻訳は日本語ではうまくいかないという話をしている。それはそのとおり。 著者が批判しているのは、「単色版式翻訳」。つまり直訳。文芸作品の直訳はありがたく…

先生三人

太宰治『先生三人』 これはエッセイ。太宰治の文学上の師というのが三人いて、それが井伏鱒二、佐藤春夫、菊池寛だという。もともと、中條百合子が文学界の封建的な徒弟制度を告発した文章があって、それに応じて書かれたもの。 徒弟制度はあるのだが、太宰…

接吻

斎藤茂吉『接吻』 エッセイと論文の中間みたいな作品。道端でベタベタなキスをしている男女(ドイツで)を見たという話から、キリスト教の歴史でキスは昔から出てくるということになる。 では日本ではどうかといえば、当用の聖書では、接吻の語を「くちづけ…

喝采

太宰治『喝采』 短編小説というよりはエッセイか。同人文芸誌の編集係をはじめて、そこの友人のことなどを書いている。酔って書いたということはないだろうが、改行がなく、ダラダラと文章が進み、非常に読みにくい。そういう効果をねらって書かれたものかも…

夾竹桃の家の女

中島敦『夾竹桃の家の女』 この話、小説だと思っていたら、「随筆」に収録されているということなので、本当の話らしい。 中島敦がパラオに行って、土地の女に眼で誘われるという話。2歳の子供を抱えているのだが、そんなことはお構いなしに誘ってくる。中島…

ぐるぐる博物館

三浦しをん『ぐるぐる博物館』実業之日本社、2017 三浦しをんの取材エッセイ。対象は博物館。ネタに取り上げられているのは、 茅野市尖石縄文考古館 国立科学博物館 龍谷ミュージアム 奇石博物館 大牟田市石炭産業科学館 雲仙岳災害記念館 石ノ森萬画館 風俗…

文豪たちの友情

石井千湖『文豪たちの友情』立東舎、2018 日本近代文学の文豪同士の人間関係物語。友情といっても、半ば倒錯的な、ややこしい関係ばかり。13組の組み合わせを話にとっていて、佐藤春夫と堀口大学、萩原朔太郎と室生犀星、武者小路実篤と志賀直哉、川端康成と…

日本衆愚社会

呉智英『日本衆愚社会』小学館新書、2018 呉先生の新刊。あいかわらずの快調なペース。 呉智英はたしか1948年生まれだったので、70歳。書き物をするのに年をとりすぎというほどのことはない。書いていることはあいかわらずで、読んでいて気持ちいい。土人、…

出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間の事

花田菜々子『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本を進めまくった1年間のこと』河出書房新社、2018 話題の本だったが、非常に面白かった。出会い系サイトというのは、この人にとってのきっかけで、そこでいろんな人と会って話すことによ…

ヨゼフ・チャペック エッセイ集

ヨゼフ・チャペック(飯島周編訳)『ヨゼフ・チャペック エッセイ集』平凡社、2018 これはカレル・チャペックと間違えて買った本。著者は、画家、ジャーナリストで、カレル・チャペックの兄。 作家ではないが、この本を読むと兄弟で才能は同じレベルであり、…

アホの壁

筒井康隆『アホの壁』新潮新書、2010 筒井康隆の無茶エッセイ。だいたいは、筒井康隆の過剰な性格から来る、無茶だと思うが、洞察自体はまあ納得。 おもしろかったのは、「戦争はなくせるのか」というおはなしで、もちろん、「できないことはないが、まあむ…

純文学とは何か

小谷野敦『純文学とは何か』中公新書ラクレ、2017 あっちゃんの、「純◯◯と通俗◯◯の境界」論。基本的には、「純文学とは売れないハイブロウなもの」ということなのだが、これを小説だけでなく、詩、映画、ドラマ、落語、歌舞伎などの周辺分野にも拡大して、「…

実録・レイシストをしばき隊

野間易通『実録・レイシストをしばき隊』河出書房新社、2018 しばき隊当事者による、記録。この人やこの団体はあまり好きではなく、個人的な付き合いもない。別に桜井誠に付き合いがあるわけでもない。その部分はどうでもよい。 したがって、第1部の在特会対…

警察官白書

古野まほろ『警察官白書』新潮新書、2018 警察出身の作家、古野まほろの警察本。この本は、警察の仕事=部門、専門ごとに警察官の特徴を描くという趣旨。 地域、生活安全、刑事、交通、警備のそれぞれについて、典型的な警察官(出世の仕方、勤務の概要、考…

絶歌

元少年A『絶歌』太田出版、2015 神戸連続児童殺傷事件の犯人、「少年A」の著書。出版時にはかなり非難されていたと思うが、読んでみると、非常におもしろかった。 この本が著者が単独で書いたものか、ライターの手が入っているものかは、わからない。編集者…

如是我聞

太宰治「如是我聞」 自殺直前まで書いていて、途中で死んでしまったので、これが絶筆になった評論。評論というには、あまりにも筆鋒が激しく、槍か刀みたいなもの。 攻撃されているのは志賀直哉。この時期にはまだ存命で、文壇の長老だが、志賀直哉が太宰の…

恋する昆虫図鑑

篠原かをり『恋する昆虫図鑑』文藝春秋、2015 著者の最初の本。昆虫の生態を、人間の恋愛関係に結びつけて書いている。後から出した2冊より、こちらの方が確実に面白い。やっぱり著者は、他の人とコラボしなくても、単体で面白い人。 著者は、自分の容姿を自…

更級日記

『更級日記』(川村裕子編)、角川学芸出版、2011 角川ビギナーズ・クラシックスに入っている版。当然抜粋。しかし、これはよかった。 藤原孝標女は文学オタク。昔から文学少女というのはこういうものだったのだろうという人。物語が読みたいからといって、…

校閲記者の目

毎日新聞校閲グループ(編)『校閲記者の目 あらゆるミスを見逃さないプロの技術』PHP、2017 新聞の校閲記者が何をしているかということについての本。基本的には日本語のミスが中心だが、それだけではなく、事実の間違いその他を含む。校閲は、「間違いをゼ…

カレー沢薫の廃人日記

カレー沢薫『カレー沢薫の廃人日記 ~オタク沼地獄~』幻冬舎、2018 カレー沢薫の新刊。2つの連載の合本で、夫との夫婦生活(とソシャゲ生活)についての「カレー沢薫のカレーなる夫婦生活」と、ソシャゲ専用の「カレー沢薫の廃人日記~オタク沼地獄~」が内…