2019-02-01から1ヶ月間の記事一覧

折りたたみ北京

ケン・リュウ(編)、中原尚哉ほか訳『折りたたみ北京 現代中国SFアンソロジー』早川書房、2018 中国SF短編集。非常におもしろい。 アンソロジーで、七人の作家の13編と、エッセイ3編が載っている。 一番おもしろかったのは、劉慈欣「円」「神様の介護係」。…

黄金風景

太宰治『黄金風景』 これは戦前の作。1939年発表とある。ネタは、昔の女中。 昔は鈍で、バカにしか見えなかった女中の消息をいきなり主人公に告げる「お巡り」(この書き方は咎められなかったのか?)。バカ女中に会いたくない主人公は、お巡りとともに訪ね…

おしゃれ童子

太宰治『おしゃれ童子』 これも、太宰治の自分ネタ。おしゃれ童子とはもちろん自分のこと。中学生の時から、おしゃれに打ち込み、金はあるから、着るものも自分であつらえている。そして、鳶の格好をむりやりしようとして、お店の人に今どき、そういう服はな…

おさん

太宰治『おさん』 戦後の話。夫がよそで浮気したあげく、浮気相手と心中するという流れを妻の立場から描くというもの。半分気持ち悪い。 夫は革命を振り回して、雑誌記者と出来てしまい、相手を妊娠させてしまって、心中。夫は状況に振り回される、非常に弱…

鬼桃太郎

尾崎紅葉『鬼桃太郎』 尾崎紅葉の、桃太郎パロディ。 桃太郎に復讐しようという鬼の老夫婦のところに、苦桃が流れてきて、そこから苦桃太郎が誕生。苦桃太郎は、豪傑で、狒々、狼、毒龍をおともに、日本を征伐しに行くのだが・・・という話。 この話、絵本に…

黄村先生言行録

太宰治『黄村先生言行録』 暇な隠居が、鯉を集めるのに飽きて、山椒魚を飼おうとする話。 ご隠居、自分の暇にまかせて、他人を振り回そうとするだけのつまらない人物で、最後はかなりやっつけられている。これは他の小説か、小説家と何か関係があって、その…

原爆を見た建物

山下和也、井出三千男、叶真幹『原爆を見た建物』西田書店、2006 原爆投下時にあった広島の建物図鑑のような本。この本の定義では、被爆建物とは、爆心地から半径5キロ以内でなんらかの形で残った建物のこと。 原爆ドームはともかくとして、他にどういう建物…

駆込み訴え

太宰治『駆込み訴え』 これはよくできている話。主人公はイスカリオテのユダ。ユダがイエスのことを後から述懐するという形式。 ユダが、イエスに惚れ抜いているにもかかわらず、また他の弟子たちをまったくバカにしており、実際にイエスの周りのことを切り…

ピカレスク 太宰治伝

猪瀬直樹『ピカレスク 太宰治伝』小学館、2018 電子版になったものを買ったが、これは傑作。表題は、太宰治その人が悪人であり、彼の生涯そのものがピカレスク・ロマンだったということ。 弱い人間で、だから3度心中し、5度自殺を企て、最後に死んでしまった…

非リア王

カレー沢薫『非リア王』講談社文庫、2019 カレー沢薫の新刊。これはコラムをまとめて本にしたもの。しかし一つのコラムではなく、「非リア王」「IT用語」「時流漂流」の三つのコラムを無理やり押し込んでいる。まあ、なんでもいいけど。 コラムそのものは、…

評伝 小室直樹(上)

村上篤直『評伝 小室直樹』(上)、ミネルヴァ書房、2018 大冊。上下2巻で、1500ページくらいある。辞書みたい。 中身は最高におもしろい。小室直樹、著作は読んでいたが、「変人」ということくらいしか知らなかった。ただの変人ではなく、破天荒な人。 若い…

東京八景

太宰治『東京八景』 これは太宰のダメ人間っぷりが(またまた)露骨に出た作品。というか、この小説に出てくる「H」は、最初の妻、小山初代だろう。 原稿のことといい、失敗した新聞社への就職といい、大学を卒業できないことといい、ダメダメだらけ。そして…

補給は大事!

LELF chem125『補給は大事! 海上護衛のお話その2』2018 これは薄い本。その2ということなので、前に同様の本が出ているはずだが、それは不知。ほとんどが図表。 基本的にわかるのが、主要目的港、船団数、隻数、トン数。あとは航路ごとに、投入船舶、…

本居宣長

田中康二『本居宣長』中公新書、2014 これは宣長研究者による本居宣長の伝記。宣長の生涯を、著作とともに追いかけている。 宣長の思想を一言で取り出すというようなことは不遜なことだと言っていて、宣長の著作をひとつひとつ検討して、その主張や方法を説…

100歳の台湾人革命家・史明 自伝

史明(田中淳構成)『100歳の革命家・史明自伝 理想はいつだって煌めいて、敗北はどこか懐かしい』講談社、2018 著者は1918年台湾生まれ。もう101歳。台湾の大地主の家に生まれ、台北一中を中退して、早稲田高等学院から早稲田の政経を卒業。そこで共産党に…

江戸の思想史

田尻祐一郎『江戸の思想史 人物・方法・連環』中公新書、2012 江戸期の思想を網羅的に概観した本。主要な思想家の著作が一通り概観されているほか、教派神道などの民衆宗教にも言及されているし、もちろんナショナリズムとの関連についても触れられている。 …

雨の降る日曜は幸福について考えよう

橘玲『知的幸福の技術』幻冬舎、2009 2004年に出た「雨の降る日曜は幸福について考えよう」を改題した本。全半部分は、もとは日経日曜版の連載で、資産選択や資産形成についての内容が中心。 後半部分は、政策論、正義論のような内容。著者のリバタリアニズ…

東洋史上から見たる明治時代の発展

桑原隲蔵『東洋史上から見たる明治時代の発展』 これはまあ、つまらない。大正になってから、桑原隲蔵が明治時代を絶賛した文章。日本は東洋一!というようなもの。当時の人だから当然だが、支那は遅れており、日本こそ支那を教え述ぶるもの、こんな時代はい…

時の流れ

鈴木大拙『時の流れ』 これは時間についてのエッセイ。時間はいつも流れていると見えているが、川の流れのように時間を外から眺めることはできないので、人間が時間を見ていると思っているのは、じつは時間の干物だという。 それでも人間の中には、「天上天…

僧堂教育論

鈴木大拙『僧堂教育論』 タイトルのままの内容、つまり僧堂教育をどのようにすべきかということが書いてあるのかと思ったらそうではなく、僧堂教育はありがたいということだけが書かれていて拍子抜けした。 著者も日本禅仏教など、ほとんど滅亡寸前であるこ…

民主主義の死に方

スティーブン・レヴィツキー、ダニエル・ジブラット(濱野大道訳)『民主主義の死に方 二極化する政治が招く独裁への道』新潮社、2018 これはけっこう書評にも取り上げられ、話題になっていた本。しかし読んでみるとバカっぽい。 前半の事実の叙述部分はそれ…

留魂録

吉田松陰『留魂録』 吉田松陰の遺書。冒頭に「身はたとい 武蔵の野辺に朽ちぬとも 留め置かまし 大和魂」の辞世がある。 しかし内容は、ちゃんと注がないとわからないもの。中国の忠義の士くらいはいいとして、遺書だから具体的な人名や物事が出てきていて、…

村の学校

ドーデ(鈴木三重吉訳)『村の学校』 これ、青空文庫では「実話」と書いてあるのだが、読んでみるとどうも実話っぽくはなく、明らかに「最後の授業」の習作っぽい。「ハメル先生」が辞めたあとにきたドイツ人教師の「クロック先生」の話。 「最後の授業」が…

男の子を見るたびに「戦争」について考えます

小川未明「男の子を見るたびに「戦争」について考えます」 これもエッセイだが、よりアホっぽい。 内容は今生きている人でもいいそうなこと。戦争反対、男の子のことが心配だというもの。それに加えて、第3インターナショナルやキリスト教が平和の助けになる…

書を愛して書を持たず

小川未明『書を愛して書を持たず』 小川未明の本エッセイ。しかしこの文章、要するに蔵書は持たないと言っている。今のように図書館やら何やらにはあまり頼れない時代だが、だったら本は持たないというのはどうなのか。 金がなかった頃は蔵書の一部を売って…