狐憑

中島敦『狐憑』 これは南洋のどこかのお話。漢学、まったく関係はない。しかしおもしろい。 主人公のシャク、ただの平凡な男だったのが、狐が憑いて、物語を語るようになった。最初は神のご託宣みたいなことだったのが、話がおもしろいので創作でもいいとい…

女類

太宰治『女類』 これは傑作。主人公が、屋台の主人の女将に惚れられてしまい、周りの男達に「あれはやめとけ」といわれる。その時に言われる言葉が、「人類と猿類ではなく、男類、女類、猿類がいるんだ」というもの。 結局、女は自殺。あいかわらずだ。そし…

羅生門

芥川龍之介『羅生門』 ひさしぶりに読んだ。やはりこれは名作。 主人公の下人、死体の髪を抜く老婆に道徳的な怒りを燃やしているが、これまでどうやって食べていたのか、よくわからない。髪を抜かれている死体になった女は、生きている時には蛇の切り身を干…

喝采

太宰治『喝采』 短編小説というよりはエッセイか。同人文芸誌の編集係をはじめて、そこの友人のことなどを書いている。酔って書いたということはないだろうが、改行がなく、ダラダラと文章が進み、非常に読みにくい。そういう効果をねらって書かれたものかも…

神代史の研究法

津田左右吉『神代史の研究法』 古事記や日本書紀に出てくる神代の記述をどのように理解すればいいのか、ということについての津田左右吉の小文。 まず、神代の出来事を、具体的な実物に比定することをやめろという。それは、現代の合理的な考え方をそのまま…

風波

魯迅(井上紅梅訳)『風波』 これも、魯迅の革命後の農村風景を描いた作。注はないので、場所はわからない。 作中の村には特別な習慣があり、子供が生まれると秤にかけて、その斤目で名前をつける。だから「七斤ねえさん」とか、「七斤」とかが登場人物。ほ…

夾竹桃の家の女

中島敦『夾竹桃の家の女』 この話、小説だと思っていたら、「随筆」に収録されているということなので、本当の話らしい。 中島敦がパラオに行って、土地の女に眼で誘われるという話。2歳の子供を抱えているのだが、そんなことはお構いなしに誘ってくる。中島…

楹虚

中島敦『楹虚』 使っている漢字変換ソフトで、「えい」(木偏のないもの)が出ない・・・。したがってタイトルがまちがっている。 春秋時代の衛の国、衛の霊公の子、荘公のおはなし。霊公もとんでもないが(この正室が孔子を誘惑したとかいう南氏)、この荘…

中国文学を学ぶ人のために

興膳宏(編)『中国文学を学ぶ人のために』世界思想社、1991 中国文学の入門書。定評のある本なので読んでみたが、非常におもしろかった。 この300ページあまりの本で、中国文学の全部の分野を時代に分けて紹介するのは大変なことだと思うが、やはり中国文学…

ぐるぐる博物館

三浦しをん『ぐるぐる博物館』実業之日本社、2017 三浦しをんの取材エッセイ。対象は博物館。ネタに取り上げられているのは、 茅野市尖石縄文考古館 国立科学博物館 龍谷ミュージアム 奇石博物館 大牟田市石炭産業科学館 雲仙岳災害記念館 石ノ森萬画館 風俗…

老子化胡経

桑原隲蔵『老子化胡経』 老子化胡経、つまり道教側が、「老子が釈迦を教化した」と主張している本の来歴についての論文。道教仏教の論争は、すでに後漢末期にあり、老子が釈迦を教化したという説もそのころにあった。 老子化胡経は、晋の恵帝の時代、道士の…

仏教史家に一言す

津田左右吉『仏教史家に一言す』 これは小文。しかし津田左右吉の立場はよく現れている。 基本的には、仏教史家が仏教のよい影響だけを強調しているが、それは間違っているということ。津田左右吉がいうのは、歴史というのは公平なものでなければならないと…

紙の歴史

桑原隲蔵『紙の歴史』 紙の歴史だが、後漢代に蔡倫が発明したことになっているのは、蔡倫が紙の新しい原料を発見したということで、製紙法自体は前漢代に存在した。「説文解字」に「紙」の項があるが、これは今でいう紙のことではない。「説文解字」は蔡倫と…

支那の宦官

桑原隲蔵『支那の宦官』 これは宦官の話。こっちは弁髪どころではなく、周代からあった習慣。中国だけでなく、古代オリエントの王国にもあったし、ローマ、ギリシャ、イスラム教帝国にもあった。逆にこれがないのは、ヨーロッパと日本だけ。朝鮮や越南にもあ…

支那人辮髪の歴史

桑原隲蔵『支那人辮髪の歴史』 これは弁髪の歴史について。清朝から始まったのかと思っていたら、そうではなく、金の時代(13世紀)から始まっていたもの。もちろん明朝では弁髪はなかったが、それを除くと、中国の弁髪は800年くらいは続いていた。 明朝では…

東洋文化、東洋思想、東洋史

津田左右吉『東洋文化、東洋思想、東洋史』 津田左右吉の「東洋」についての文章。卓論。 東洋というのは西洋に対して言う言葉だが、もともと中国では、東洋というのは太平洋で、西洋というのは、南シナ海からインドのこと。もちろん中国は中心だから東洋に…

史論の流行

津田左右吉『史論の流行』 19世紀末の文章だが、津田左右吉が日本歴史学の浅さを嘆いている文章。 史論が流行しているが、歴史を論じるには正確な事実がなければならず、それが史論に欠けているという。史論というのは国史についてのものなのだが、津田左右…

村芝居

魯迅『村芝居』 田舎に芝居一座が訪ねてくる話。これはどうなっているのか、客は船で芝居を見に行くことになっている。おそらく川岸に適当に幕でも張って舞台をしつらえて、客は川に浮かべた船で見ているのだろう。 日本の本で中国の芝居は、むやみに叩いた…

支那史上の偉人

桑原隲蔵『支那史上の偉人(孔子と孔明)』 講演録で、6回シリーズで支那史上の偉人を取り上げる予定で、孔子、始皇帝、張騫、孔明を扱うはずだったのが、始皇帝と張騫は他の文章で取り上げたのでやめた、孔子と孔明だけで3回ずつ話します、ということになっ…

支那猥談

桑原隲蔵『支那猥談』 この文章、猥談と書いてあるのでなんだろうと思ったら、今の意味での猥談ではぜんぜんない。中国と中国人の欠点を指摘するというようなもの。 1926年の文章なので、日本と中国の間が本格的には悪くなってはいないが、あまりよい状態で…

秦始皇帝

桑原隲蔵『秦始皇帝』 桑原隲蔵の、始皇帝についての小文。始皇帝が悪ばかり強調されるのは、漢代のためにする議論と中国人の道徳主義の影響だと断じていて、これはいまでは普通の議論だが、当時は(1927年)斬新だったはず。 勉強になったのは、焚書坑儒の…

端午節

魯迅『端午節』 これも、「頭髪の故事」と似たような題材。ただし、こちらは夫婦関係というか、男女の地位がネタ。 主人公はこれも中学の先生だが、妻に対して「おい」としか言わない。その主人公が、給料を持って帰らないのに、妻に対して節句の払いをしろ…

頭髪の故事

魯迅『頭髪の故事』 これは掌編。魯迅が中学の校長をしていたときのことから引いたエピソードらしい。つまり私小説。 主人公は、双十節のことを語っているので辛亥革命よりあとのこと。革命よりそれほど時間がたっていない時に設定されている。しかし主人公…

陳独秀

長堀祐造『陳独秀 反骨の志士、近代中国の先導者』山川出版社、2015 中国共産党の初期の指導者、陳独秀の簡潔な伝記。この人も名前くらいしか知らなかった。 新文化運動、五四運動の指導者。当時はまだ共産主義者ではなかった。五四運動が敗北して、ソ連の指…

孔乙己

魯迅(井上紅梅訳)『孔乙己』 ずいぶん前に読んでから、ひさしぶりに読んだ。 語りては酒屋の小僧、見かけはのろまだが、観察力はある。上客を通す座席と安い客を通す立席があり、孔乙己は立席で唯一の長袖者。読書人といっても、秀才にもなれておらず、酒…

支那人間における食人肉の風習

桑原隲蔵『支那人間における食人肉の風習』 著者は、中国文学者。内藤湖南と並ぶ東洋史学者。宮崎市定の師匠。 この本、タイトル通り中国社会における食人風習の話だが、文献の出典が非常に広い。中国の史書にあたっていることは当然として、フランス語、ド…

瘠我慢の説

福沢諭吉『瘠我慢の説』 福沢諭吉が、勝海舟、榎本武揚を論難した文章。 勝海舟、榎本武揚は、幕臣でその後明治政府に仕えた人だが、彼らに対して「あなたたちはプライドないのか」と言っている。もちろん、福沢は、勝海舟、榎本武揚の功績は認めており、江…

魯迅

藤井省三『魯迅 東アジアを生きる文学』岩波新書、2018 著者は、魯迅研究者。光文社古典新訳文庫で、「阿Q正伝」などの翻訳も出している。 魯迅の生涯については、だいたいまとまっている。魯迅作品の日本、朝鮮、台湾、ベトナムへの受容や、共産党政権下で…

「情」の文化史

張競『「情」の文化史 中国人のメンタリティー』KADOKAWA、2014 中国の文献で「情」がどういう意味で使われていたかという本。情というと、日本語だと男女、親子、友人くらいか。この本を読むと、その程度ならまあ、中国も日本に近いが、その情の内容となる…

ミッションスクールになぜ美人が多いのか

井上章一、郭南燕、川村信三『ミッションスクールになぜ美人が多いのか』朝日新書、2018 井上章一の新刊。このタイトルで即買いした。 内容はタイトルの通り。井上章一は、「自分はミッションスクールに美人が多いと思っていたし、仏教系女子校もそう思って…