#小説

メガネと放蕩娘

山内マリコ『メガネと放蕩娘』文藝春秋、2017 これは「シャッター商店街」をネタにした小説。地方によくあるシャッター商店街をどうすれば再生できるかという話。 結局再生というよりは、再開発されて大きなビルが建ち、そこはほとんどマンションになるとい…

消滅世界

村田沙耶香『消滅世界』河出書房新社、2018 これはキチガイ小説。ハクスリー『すばらしい新世界』のアイディアを使っているが、ハクスリーが出産と育児を中心的に扱っていたのに対して、こちらはそのもとになるセックスを扱っていて、こっちのほうがよくでき…

紫苑物語

石川淳『紫苑物語』講談社、1989 これは超絶的な傑作。何かの拍子に買ったので、どういうはずみか忘れてしまったが、それまで石川淳の名前すら知らなかった。 この本に入っているのは、「紫苑物語」、「八幡縁起」、「修羅」の三作品。どれも短編くらいの長…

巌窟王

アレクサンドル・デュマ、野村愛正『巌窟王』三一書房、1995 デュマ・ペールの「モンテ・クリスト伯」を野村愛正が再話した子供用バージョン。これは昔読んだ。 全体の量の7分の1くらいに縮約されている。しかし、それでいて、このバージョンは非常に…

朝鮮大学校物語

ヤン・ヨンヒ『朝鮮大学校物語』角川学芸出版、2018 「かぞくのくに」の映画監督、ヤン・ヨンヒが書いた、半自伝小説。主人公ミヨンは、いくつかの設定ではヤン・ヨンヒとは違っているが、中のエピソードは妄想を含めて、自分の例から取っているはず。 話は…

幸福なハダカ

森美樹『幸福なハダカ』新潮社、2016 連作短編集。著者は1970年生まれとなっているので、48歳くらいか。少女小説から出て、エロ入り小説にシフトしてきた人。 エロ入りといっても、明るいほうではなくて、暗い方。いろいろと傷があって、それをエロで癒やし…

ここは退屈迎えに来て

山内マリコ『ここは退屈迎えに来て』幻冬舎、2012 これが山内マリコの処女作。といっても、この本の前に作品は発表されているのだが、出版されたものではこれが最初。 連作短編集で、簡単に読める。基本的に10代、セックス、社会階層、地方、といったモチー…

あのこは貴族

山内マリコ『あのこは貴族』集英社、2016 いろいろな女のパターンを上手に小説にしている山内マリコの作品。これは買っても良かったが、図書館で予約していたらかなり時間がかかった。それだけ予約数が多かった。 話の内容は、東京に生活する上流に属する階…

本物の読書家

乗代雄介『本物の読書家』講談社、2017 驚くべき本。この本をなんで持っている(図書館で借りた)のか、忘れてしまったが、なんとなく借りたわけではないので、書評で読んだということのはず。 この著者、1986年生まれとなっているので、30歳をちょっと越え…

人間椅子

江戸川乱歩『人間椅子』 前に映画化されたものを見たが、これも映像作品にするのは難しいもの。小説の方がよい。 美人の女流作家に送られてきた変な手紙のようなもの、というかストーカーからのラブレターのようなもの。これは確かに気持ち悪い。しかし、ソ…

雌に就いて

太宰治「雌に就いて」 これは掌編。しかし傑作。というか、太宰の実際の生涯を知っているから、ただの創作ではないことがわかる。 主人公と客は、客の女についての話をしている。貧しい育ちの、よくわからない女。客は、この女と死にたい。というか、なんで…

恋衣 とはずがたり

奥山景布子『恋衣 とはずがたり』中央公論新社、2017 これは『とはずがたり』を著者が、リライトしたもの。主人公である二条と西園寺実兼の娘が、母の日記を見つけて書いたという設定になっている。『とはずがたり』そのものの厳密な訳ではないが、著者は、…

罪と罰を読まない

岸本佐知子、三浦しをん、吉田 篤弘、吉田 浩美『罪と罰を読まない』文藝春秋、2015 以前新聞の書評欄で見たのだが、読んだのは、人に紹介されたから。めちゃくちゃ笑えた。 この4人は『罪と罰』を読んだことがないのに、内容を適当に想像して読書会をすると…

覇者の戦塵1945 戦略爆撃阻止

谷甲州『覇者の戦塵1945 戦略爆撃阻止』中央公論新社、2017 『覇者の戦塵』シリーズの新しい巻。これが1年9ヶ月ぶりの新刊で、通算40巻目。第1巻は1931年で、やっと1945年まで来た。 いったいいつ終わるのかというと、「実際には三年もかけるつもりはない」…

太宰治『葉』 これは超絶的な傑作。やはり第一短編集『晩年』の中の作品だが、どうしてこんなにすごいものが書けるのか、わからない。 はっきりいって、話を追うのがたいへんな小説。しかし、ひとつひとつのエピソードがみな立っており、一貫したストーリー…

魚服記

太宰治「魚服記」 これも『晩年』所収の短編。女が龍になるかとおもいきや、鮒になってしまうという話。ぜんぜんつまらないというわけではない。短くて読みやすいし、趣向はおもしろい。 しかし、『晩年』の別の作品と比べると、そんなにおもしろいわけでは…

100分de名著 レム”ソラリス”

「100分de名著」 「レム”ソラリス”」1-4 NHKEテレで放送していた、「ソラリス」の解説番組。これは訳者の沼野充義ご本人が出演。これは本そのものを読んだことはなく、映画「惑星ソラリス」を見ただけ。あれが非常にわかりづらく、おまけに長いので、簡単に…

地球図

太宰治「地球図」 これも『晩年』所収の作品。江戸時代、新井白石の頃に日本に来た宣教師「シロオテ」の話。 短い作品だが、完成されている。シロオテ、わざわざ日本に来て、本当に必死で聖書の教えを説き聞かせたのに、新井白石は仏教の焼き直しと思い込ん…

戦争と一人の女

坂口安吾『戦争と一人の女』 坂口安吾の短編。非常に面白い。戦争中、主人公の男(野村)とその女(名前はない)が夫婦同然の関係になっているのだが、この女が面白い。多情で淫奔なのだが、どうも深みがなく、愛情もない。生命力だけという人。 しかし、こ…

陰火

太宰治『陰火』 これも、『晩年』に載っている短編。誕生、紙の鶴、水車、尼の四つの小編からなる連作。 ぼやっと暗い世界。だいたいは男女関係。でも、出て来る人物には生きる気力がなく、性もそこからのエネルギーは何も感じない。「砂の女」みたいに、妙…

彼は昔の彼ならず

太宰治『彼は昔の彼ならず』 これも短編。最初の短編集『晩年』に入っている。 めずらしく、女が中心ではなく、女を媒介に二人の男のやり取りを中心に描いているのだが、最後はやっぱり女の話になる。主人公(大家)も、間借り人の男(木下青扇)も、両方太…

眉山

太宰治『眉山』 短編だが、超絶的な傑作。こんなものが書けるのか。 トシちゃんこと眉山のバカっぽさ。太宰が馬鹿な人間を心底軽蔑していたことがよくわかる。それにしても、「基本的人権=人絹」のくだりはかなり笑う。いまは人絹といっても通じないのだろ…

猿ヶ島

太宰治『猿ヶ島』 これも『晩年』に入っている作品。最初の短編集からどうしてこんなにおもしろいのか。 主人公は猿。猿ヶ島の猿なので、人間に観察されているのだが、当然猿が人間を観察してる。「あれは学者と言って、死んだ天才にめいわくな註釈をつけ、…

大ニュース=ルパンとらわる

モーリス・ルブラン(南洋一郎訳)『大ニュース=ルパンとらわる』(怪盗紳士より)『少年小説大系』26「少年翻訳小説集」、1995 これは、図書館で発掘。野村愛正訳『巌窟王』を読むつもりだったが、こっちが短いので先に読んだ。ルパンものをぜんぜん読んだ…

猿面冠者

太宰治「猿面冠者」1934 これも太宰治の最初の短編集の作品。こっちは、新人作家というか、太宰ご本人が青森でウダウダしていたときの話。 頭はよく、プライドは非常に高く、英作文の出来で、英人教師に褒められ、クラスメートからは羨望されていたという主…

列車

太宰治『列車』1933 これも太宰治の短編。「太宰治」の筆名で発表された最初の作品。初めての作品というわけではないが、それでも早い時期の作品で、これだけおもしろい。 列車の記号や細かい描写が頻出するが、それは背景で、中心は、「貧しく無学な妻」。…

めくら草紙

太宰治『めくら草紙』1936 これは短編。1936年に発表されたのだから、太宰が27歳のときの作品。それでも、当然のように主人公はモテモテだ。 タイトルの通り、「枕草子」を踏まえているのだが、出てくるものは、植物、と、隣のキョウチクトウを植えている家…

巌窟王

デュマ(打木村治訳、小松崎茂画)『少年少女世界の文学 巌窟王』小学館、2017 1978年に出た、「少年少女世界の文学」30巻のひとつ。200作品を30巻で出したというのだが、これは圧縮しすぎでは。 この「巌窟王」は小松崎茂が挿絵を描いていて、それはまあい…

ロマネスク

太宰治『ロマネスク』ちくま文庫、1988 ぼちぼちと太宰治を読むようになったが、おもしろい。みんな読んでいるからというつまらない理由で敬遠していたが、そんな理由で読んでいなかったのはもったいなかった。 この話は、これ自体が短編なのだが、「仙術太…

イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ

トルストイ(望月哲夫訳)『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ』光文社古典新訳文庫、2013 トルストイをほとんど読んだことがないので、取り付きやすい中編を読んだが、こういう話なの? 「イワン・イリイチの死」は、非常に読みやすくおもしろい。…