絶歌

元少年A『絶歌』太田出版、2015


神戸連続児童殺傷事件の犯人、「少年A」の著書。出版時にはかなり非難されていたと思うが、読んでみると、非常におもしろかった。

この本が著者が単独で書いたものか、ライターの手が入っているものかは、わからない。編集者の手は入っているかもしれないが、基本は著者が単独で書いていると考える。

著者は、非常に知的な人物。1982年生まれ、97年に「酒鬼薔薇聖斗事件」を起こしたのが14歳の時。その後、2004年まで関東医療少年院に入所、そのご仮出所して、現在に至る。この本の記述からすれば、定職についておらず、いくつかの短期の職業を転々としているように見える。

酒鬼薔薇聖斗」の手紙そのものが14歳の子供の書いたものとは思えなかったが、この本を読んで確信した。これは完全にドストエフスキーの徒。ドストエフスキーを実際に読んだのは、医療少年院入所以後に与えられたものだが、この本では、完全に自分をラスコーリニコフに重ねて書いている。

犯行時にはっきりとした自覚があったかどうかはわからないが、正義感などではなく、自分の中にある衝動と強大な力を統御することができなかった人。

犯行までのことよりも、その後の医療少年院と出所後の日々に重点がおかれている。非常に内省的な人物。暴力的な衝動そのものはまだあるようだが、自分を制御する能力は身につけているように見える。本はほとんど医療少年院で与えられたものを読んでいるようだが、理解の深さがきちんとしている。もともとの知的能力がかなり高くなければこれはできない。

この本の文章や、事実の構成そのものが、著者の能力を示している。事件の内容を考えれば、何を書いても叩かれることは当然だが、この本を書くこと自体が、著者にとっての治療の一部であり、自分に向き合う手段になっていると思われる。議論はあっても、この本が出版されてよかったと思う。