猿面冠者

太宰治「猿面冠者」1934


これも太宰治の最初の短編集の作品。こっちは、新人作家というか、太宰ご本人が青森でウダウダしていたときの話。

頭はよく、プライドは非常に高く、英作文の出来で、英人教師に褒められ、クラスメートからは羨望されていたという主人公。しかし、肝心の小説は書けないし、自費出版しても全然売れない。

作品はできなくても、プライドは高いので、友人(心中ではバカにしている)に見せて評を乞うのに、よけいなことは言ってほしくないのだ。だったら最初から聞かなきゃいいのに、そこが若い主人公のしょうがないところ。

この主人公が、自分が古本屋に売った「オネーギン」と「チェホフ書簡集」を買い戻そうとするくだりがある。チェホフ書簡集は内容が書いてないのでともかく、オネーギンの方は、タチヤナのオネーギンへの恋文が読みたくて買い戻すのだ。つまり主人公自身がオネーギン。余計者でモテモテだというのは最初からそうなのだ。

終わりの方は、幻ということになっているが、女からの手紙、それも非常にネットリしたもののことを書いている。ただの新人作家が大作を自費出版とか、アホらしいと思うが、この手紙は真に迫っていて、書けない主人公のことをやたらといたぶっている。

当然、太宰はこの女のことはキライだし、女が自分のことを見抜いていることも嫌だろう。太宰がこの女に近寄って、袖にしたからだけど。コワイ。