紫苑物語

石川淳『紫苑物語』講談社、1989


これは超絶的な傑作。何かの拍子に買ったので、どういうはずみか忘れてしまったが、それまで石川淳の名前すら知らなかった。

この本に入っているのは、「紫苑物語」、「八幡縁起」、「修羅」の三作品。どれも短編くらいの長さ。それにしても、話の設定、登場人物、終わり方その他、すべての点で、ものすごい作品。古文や漢文、歴史の素養も入っているので、今、現役の人に書けるような作品ではないだろう。

解説の文章に、「抽象絵画に何が描いてあるのか知ろうとすることは無意味」と書いてあったが、まさにそういう話。いちいち浅い解釈をするような行為を拒絶している。

三浦しをんの名前は、母親がこの作品が取ったからだというし、考えてみればマンガ家のいしかわじゅんは、この人と同じ字を使うことを憚ったからだろう。近過去にたいへんな人がいたということすら忘れられている。自分が知らないだけだということだが。