陰火

太宰治『陰火』


これも、『晩年』に載っている短編。誕生、紙の鶴、水車、尼の四つの小編からなる連作。

ぼやっと暗い世界。だいたいは男女関係。でも、出て来る人物には生きる気力がなく、性もそこからのエネルギーは何も感じない。「砂の女」みたいに、妙にひからびたようす。

太宰が左翼運動にのぼせて、その後挫折した頃の話だから、「ダメな自分」を自分で責め立てる影があるということ。それにしても、こんなのに付き合わされている(寄ってきている)女は災難だ。しかし、元気なときも女が寄ってきて、そうでないときも女が寄ってくるとはどういうことか。「妻が処女じゃない」と不満をぶつぶつ言っているところなど、かなり笑える。

これを書いているときはテンションかなり下がっていそう。それでも、このくらいの作品が書けている。