イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ

トルストイ(望月哲夫訳)『イワン・イリイチの死/クロイツェル・ソナタ光文社古典新訳文庫、2013


トルストイをほとんど読んだことがないので、取り付きやすい中編を読んだが、こういう話なの?

イワン・イリイチの死」は、非常に読みやすくおもしろい。最初に死ぬことのイメージが強烈に出てきて、それからイワン・イリイチが死に至るまでの話がサクサク進んでいく。読んでいる自分が少しずつ死んでいくような感じ。

「クロイツェル・ソナタ」は、こっちも初めの時点で、主人公の妻殺しが明かされて、その事情が順に展開していくという話。主人公はもともと女にだらしない放蕩者だが、心を改めて結婚する。といっても、女の美しさにひかれたところまではいいが、二人の間に話すことは何もなし。

「性欲は悪」「子供は苦しみ」という主人公の主張がどんどん突き進み、結果は妻の浮気、殺害ということになるのだが、トルストイってこういう人なのか。「アンナ・カレーニナ」はぜんぜん違う話だったはずだけど。子沢山の人が老齢になってからこういう話を書くのも因業。