地球図

太宰治「地球図」


これも『晩年』所収の作品。江戸時代、新井白石の頃に日本に来た宣教師「シロオテ」の話。

短い作品だが、完成されている。シロオテ、わざわざ日本に来て、本当に必死で聖書の教えを説き聞かせたのに、新井白石は仏教の焼き直しと思い込んで、その部分はぜんぜん聞いていなかった。そして、上策(強制退去)、注策(入牢)、下策(死罪)を提案する。

結局シロオテは生涯牢に入れられてそのまま死んだ。シロオテの周りの人はシロオテの教えにはまったく耳を傾けなかった。下策を取ったのと同じことだし、シロオテの企てや、人生そのものがムダだった。

何にでも通じる話。途方もない情熱で、能力のある人がすべてを尽くしても、何もできなかったということがある。この話はそういう人のもの。この手のことは、実際によくあること。誰も何も書き残さないし、目に止めないので、知られないというだけ。それを創作の形にしただけのもの。悲しい話だが、喜劇ともいえる。