めくら草紙

太宰治『めくら草紙』1936


これは短編。1936年に発表されたのだから、太宰が27歳のときの作品。それでも、当然のように主人公はモテモテだ。

タイトルの通り、「枕草子」を踏まえているのだが、出てくるものは、植物、と、隣のキョウチクトウを植えている家の娘「マツコ」。このマツコ、色黒で容姿はよくないということになっているが、実は主人公にベタ惚れしている。というか、主人公と「家人」(ということは妻)が喧嘩した時に、はさみを握って今にも刺そうという勢い。マツコが誰を刺そうとしているのかはあいまいだが、これは家人を刺そうとしているにきまっている。

しかし主人公は、マツコにまるで女としての関心を持っていないようで、さらには家人に「おめかけさんでもお置きになったら?ほんとうに。」と言われている。そして、最後は植物の名前を挙げておきながら、それとは全然関係ない終わり方。読者の気を引いたあげくにガンガン突き放すのは、主人公とマツコの関係と同じ。

こんなことが若いうちからできていれば、それはモテモテになるに決まっている。そしてこの小説は文句なくおもしろい。自分に花の名前がわからないのは本当に残念。わかればもっと情趣を感じられるはず。