消滅世界

村田沙耶香『消滅世界』河出書房新社、2018


これはキチガイ小説。ハクスリー『すばらしい新世界』のアイディアを使っているが、ハクスリーが出産と育児を中心的に扱っていたのに対して、こちらはそのもとになるセックスを扱っていて、こっちのほうがよくできている。

人工子宮が開発されて、男でも妊娠することができ、男女間のセックスはなくなり、子供は基本的に人工授精で生まれてくる社会。夫婦関係には、セックスは持ち込んではいけないことになり、キャラクター相手のオナニーで性欲を解消している。

この状態では、セックス行為だけではなく、性別としてのセックスもほとんどなくなりかかっており、その状態で性欲だけはあるというもの。主人公は、女性で性欲はキャラ相手でも人間相手でも消費できるのだが、けっきょくは人工授精、共同育児の社会に自分を合わせていくというキャラ。合わせていくというよりは、主人公のような性欲パターンなら、子供もいらず、夫婦もあってもなくてもいいようなもので、あとは個人で適当にやればよく、その結果として子供の私有化もいらなくなる。

巻末に斎藤環が解説を書いていて、村田沙耶香は、性愛に発達障害的視点を持ち込んでいるといっている。これはけっこう納得。こういう小説は他の人が簡単に書けるものではないので、この著者の作品は読むべきもの。