列車

太宰治『列車』1933


これも太宰治の短編。「太宰治」の筆名で発表された最初の作品。初めての作品というわけではないが、それでも早い時期の作品で、これだけおもしろい。

列車の記号や細かい描写が頻出するが、それは背景で、中心は、「貧しく無学な妻」。大学の友人が田舎娘と恋愛し、親に反対されていたのだが、とうとう東京まで呼び出した。主人公はその友人とは疎遠になりかけていたが、自分も「無学な妻」と結婚していたので、興味もあってちょっとだけ会ってみた。しかし、友人の思惑まで透けて見えてしまい、結局友人は田舎娘を田舎に返してしまうことにした。

ハイライトは、田舎娘を田舎に送り返す駅の場面。主人公は、「無学な妻」を連れて行くのだが、それは「貧しく無学な女同士、話が合うだろう」という適当な決めつけのため。しかしそんなことで話が合うわけもなく、何も話すことはないままで田舎娘は行ってしまう。

太宰治の無学な女への冷たい視線と、無学な女の体を利用するだけしまくってから捨ててしまう友人(これは太宰自身のことも入っているだろう)への冷たい視線が混ざっていて、心が冷え冷えとするお話。青森と上野を行き交う汽車なんて、太宰からすれば郷愁の対象というより、自分の黒い部分の思い出しかないようなもの。女の方も災難だけど。