戦争と一人の女

坂口安吾『戦争と一人の女』


坂口安吾の短編。非常に面白い。戦争中、主人公の男(野村)とその女(名前はない)が夫婦同然の関係になっているのだが、この女が面白い。多情で淫奔なのだが、どうも深みがなく、愛情もない。生命力だけという人。

しかし、この女、多情だが、中はカラッとした人で、金は求めないし、結婚して欲しいなどとも言わない。性交は好きだが、終わったらあっさりしている。

これで戦争中はうまくやっていたのだが、終わってから男の冷たい視線に女も気づく。最後に女の視線もきつくなり、これで終わりそうだなという余韻を残して終わる。

女のキャラもおもしろいが、この二人の関係、戦争という時代背景があって成り立っていたもの。厳しい状況では、動物的になれる関係のほうがいい。しかし環境が変わると、緊張の糸がキレてしまう。

厳しい環境の中だけで輝いている人というのはいるもの。まだそういう人を現実に見たことはないが、戦争中にはたくさんいたことだろう。