恋衣 とはずがたり

奥山景布子『恋衣 とはずがたり中央公論新社、2017


これは『とはずがたり』を著者が、リライトしたもの。主人公である二条と西園寺実兼の娘が、母の日記を見つけて書いたという設定になっている。『とはずがたり』そのものの厳密な訳ではないが、著者は、国文学者から作家に転じた人なので、内容はだいじょうぶだろう。

参考文献を見ると、『とはずがたり』の現代語訳、校注本は網羅されているので、ちゃんと書いているはず。それにしても、だいたいどういう話かは知っていたが、二条は、いまで言うところの「ヤリマン」。それも主体的にというよりは、男に流されてしまう方。

だいたい最初から後深草院に子供の頃に犯されるわけだが、その後、西園寺実兼との二股になり、それから、仁和寺阿闍梨有明)と関係し、その後は亀山院とも関係する。あとは、一の人こと近衛の大殿。この期間、ずっと後深草院との関係は続いているので、なんでもあり。

この乱れっぷりも、ぜんぶ後深草院が仕組んでいることで、いまでいうNTR.。井上章一の本を読んでいるので、これがただのNTRだけではなく、後深草院の政治的な思惑が絡んでいただろうということは知っているのだが、有明も、亀山院も、後深草院の兄弟だし、業が深すぎる。

終わりの方は、二条が鎌倉やら江戸やら、伊勢やらを訪ね歩くというよくわからない展開になっていくのだが、いくら美人でヤリマンでも、年をとって、寵が薄れれば、人間、無常を知るということになる。こんなエロ小説が、現代に至るまで、存在もろくに知られていなかったというのが趣のあるところ。