学校の戦後史

木村元『学校の戦後史』岩波新書、2015


学校の「戦後史」となっているが、戦前期の学校制度の成立以後の事情にも触れられているので、日本における学校の歴史と社会、みたいな本になっている。

統計が多く出ており、これは非常にありがたい。学校制度は明治期に成立していたにしても、実際にそれが機能するまでには長い時間がかかったこと、学校の定着は都市化によって確立されたことがよくわかる。

戦後の学校史は、教職員組合、家庭、学校の三者の対抗関係。これもややこしい。薄いボリュームでまとめてあるのと、参考文献リストがきちんとしているので、安心して読める。ざっとした理解にはこれで十分。

おどろきの中国

橋爪大三郎大澤真幸宮台真司『おどろきの中国』講談社現代新書、2013


橋爪、大澤、宮台の社会学者3人による中国についての鼎談。

中国がどういう「原理」で動いているのかを説明する第1部と、毛沢東時代を考察する第2部は、非常に勉強になった。鼎談本なので、いちいち文献的証拠が出ているわけではないが、橋爪の説明はおおよそ正しいことを言っているように見える。これである程度の説明になっている。

日中関係史に触れている第3部と、今後の展望をしている第4部は、それに比べると、やや説得力に欠けた部分がある。それでも、ドイツの「責任論」を日本の議論と対比させている議論は説得力がある。台湾や北朝鮮について言及しているところは、半信半疑になるような部分もあるが。

全体として、理解しにくい中国を説明している好著。しかし、これを中国人や、中国研究者がどのように捉えるのかはまた別の話。『ふしぎなキリスト教』批判の例もあるので、そういう見方を別の人から聞きたい。

バレエとダンスの歴史

鈴木晶(編著)『バレエとダンスの歴史』平凡社、2012


タイトルの通りで、これは大学の舞踊論の教科書として書かれた本。しかし、歴史としてはこれでよいが、舞踊そのものの映像がないと、これだけではわからない。

やはりビデオで見ながら読むもので、図版もあるが、これでは人の顔もわからない。むしろ、社会と舞踊のつながりに注目した本を読むべきだった。この本にも、バレエ成立初期のことは書いてあるのだが。

書いているのは、この分野の専門研究者で、巻末の参考文献は非常に充実している。日本語以外の各国語の文献が多く紹介されている。最初の章を読んでも、初心者向けの本ではなく、ある程度学んだ人のための本。

びわ湖ホール ジークフリート

ワーグナージークフリート

     ミーメ:高橋 淳
     さすらい人:ユルゲン・リン
     アルベリヒ:大山大輔
     ブリュンヒルデ:ステファニー・ミュター

     沼尻竜典指揮、京都市交響楽団

     びわ湖ホール、2019.3.3


これは先週、びわ湖ホールで行われた公演。2日目に行った。はっきり言って、あまり出来はよくない。歌手がやはりいまいち。ジークフリート役のフォイクト、声が小さい。ミーメの高橋淳は、まあまあだけど、すごくいいとは言えない。あとはうーんという感じ。特にオーケストラ、音を抑えすぎというのはよろしくない。

舞台は、幕に映像を投影する方式。もうちょっと工夫してほしかったと思うけど、ファフナーは、しっぽだけを実物(塩化ビニール?の空気が入ったしっぽがニョロニョロ)で、頭部分は映像。これはおもしろかった。しかしジークフリート、心臓に剣を突き刺すことができず、しっぽしか刺してないんだけど、いいのだろうか。そういえば、森の小鳥は、姿を現さず、声だけ。

3幕の、ジークフリートブリュンヒルデのややこしいやりとり、いつも退屈していたが、この公演については、ちょっとブリュンヒルデの乙女心がわかったような気がした。収穫があったとすればそれ。

人類進化の700万年

三井誠『人類進化の700万年 書き換えられる「ヒトの起源」』講談社現代新書、2005


ちょっと前の本だが、おもしろかった。著者は読売新聞の科学記者。この分野、よく知らなかったので非常に勉強になった。

一番わかっていなかったことは、ヒトの進化は単線的ではなく、いろいろ枝分かれしていて、今のホモ・サピエンスは、その中から残った一つだということ。ホモ・サピエンスとホモ・ネアンデルターレンシスは少し遺伝子が交雑していて、両方の間に交配があったと思っていたが、この本ではそれは否定されている。

特に年代測定や遺伝情報からの判定はあやふやだったところがはっきりしてよかった。良書。

したがるオスと嫌がるメスの生物学

宮竹貴久『したがるオスと嫌がるメスの生物学 昆虫学者が明かす「愛」の限界』集英社新書、2018


著者は生物学者。対象は、昆虫の生殖。非常におもしろい本で、著者の研究対象を通じて、生物の交配行動がわかりやすく説明されている。

著者の主要な研究対象はミバエ。小さいハエで、短い周期で繁殖するので、遺伝形質を観察しやすい。

昆虫でも、生殖行動はヒトや哺乳類と驚くほど共通点が多い。オスが交尾に積極的なところ、夕方、カゲロウなどの昆虫が群れになっているのは、交尾のためだというのはこの本で知ったが、あれも、自然選択に影響されている。時間が早いと、天敵に食われる確率が高くなり、グズグスしていると交尾の機会を逃してしまう。実験室環境では、天敵の脅威がなくなるので、交尾を早くする方向に交尾周期が変わっていく。タイミングが重要ということ。

どの生物でも基本的な性向の方向付けは変わらない。自然選択のきめるとおり。

太宰治『鴎』


1940年に書かれた短編。小説だが、半ばはエッセイのようでもある。ほとんど自分語り。兵隊さんの書いた小説とか、酒のこと、飲み屋のこと、いろいろ材料はちりばめてあるが、ほとんどは、周りに乗り切れない自分のこと。

だいたい「芸術家」としての自分と、そういう自意識に対する自分自身の恥ずかしさのこと。あとは文豪になりたい、エラくなりたいという欲。これはいつも変わらない。