ユリアヌス

南川高志『ユリアヌス 逸脱のローマ皇帝山川出版社、2015


辻邦生の『背教者ユリアヌス』でしか知らなかったこの人、実はあの小説のような人ではなかったというのが、この本を読んでわかった。

一般的には、「キリスト教側からの悪口」→「反対側からの見直し」→「史料による再見直し」ということになる。辻邦生の小説は、反対側からの見直ししかできてなかった時期に書かれたもので、今日の歴史学からみたユリアヌスのイメージは違っている。

小説のイメージと異なるのは、皇帝になったことはユリアヌス本人の意思、副帝としての活動は非常に好戦的なもの、基本的には宗教的思索をしていた哲学者ではなく、何よりも統治者というところ。

孤独な哲学者みたいな人を考えていたので、ぜんぜん違うイメージ。この人、ササン朝との戦争で30歳くらいで陣没してしまい、皇帝としての在位は2年もなかったような人なので、よけいに悲劇性が強調されるのだが、そういうイメージを抜きに見ると、かなり違って見える。

歴史は歴史小説から入ったとしても、学び直しをしていかないと、勝手にイメージ形成がされてしまって間違えるということ。しなきゃいけないことが多い。