底辺への競争

山田昌弘『底辺への競争 格差放置社会ニッポンの末路』朝日新聞出版、2017


山田昌弘の新著。あいかわらず非常におもしろい。

バブル以来、30年間の日本の変化をまとめた本だが、それが「底辺への競争」つまり、蜘蛛の糸状態だという話。

日本社会は、バブルまでは正規雇用中流というモデルが一般的だということになっていたが、それがずるずると潰れて、今では非正規雇用下流の道が大きく口を開けており、誰もがそれに落ちないようにするために必死。これは日本の失敗というよりは、グローバリゼーションの結果で、どうにもならない。正規雇用はとりあえずは生き残れたにすぎず、それが一生の安心を約束するという話はない。

中年がパラサイト・シングルになっているのは、日本と韓国くらいしかない特殊な現象。あとは、南欧がそれに近いが、そこでは恋愛ゲームが威力を持っているので、恋愛の相手を家に引っ張り込むという荒業ができる。しかし、日本ではそれもできず、一生結婚できない可能性が高い。

ヨーロッパでは、早く家を出るように圧力がかかっているので、所得の低いカップルが同棲するが、日本はそれがないので、そういうパターンがない。ヨーロッパと日本の違いは、文化・制度要因で、5つある。女性活躍度、親同居の可否、恋愛・性行動の活性化、社会保障政策、移民の可否。親同居以外は、日本では否。ヨーロッパでは是。

若い世代の格差は拡大していき、それを止めることができないので、パラサイト・シングルは増加。しかも現在は親世代が金をもっているので、それができるが、将来の親世代はそうではないので、同じことはできなくなる。経済格差と家族形成格差(結婚の可否)が一緒にやってくるので、下流老人と中流に残れる老人の区別が一気に開く。それが2040年くらいには完成する。現在アラフォー世代が高齢化するときが、その時。

年金はあまりもらえなくなり、生活保護はもう維持できなくなっている。著者の解決策は、家族と家族のいない層の差を縮めること。具体的には、家族がいなくても、横にゆるく繋がれるようにすること。また親子が経済的な負担を互いにしなくてもよいようにしたり、養子縁組をしやすいようにすること。そのための政策的な支援を行うこと。

現在の社会的趨勢を見ると、これは確実に来そうな話。若者の保守化というのも当然。誰も、将来がよくなるとは思っていない。現在をちょっとでも守りたいだけ。今から準備しないと、アラフォー世代の高齢化なんて、そんなに時間的余裕はない。税金もすぐに上げないといけないし、何もかも間に合わなくなると思うが。