無面目・太公望伝

諸星大二郎『無面目・太公望伝』潮出版社、1989


古本屋で見つけて拾ってしまった。これは昔読んだはずだが、おぼろげにしか覚えていないので、2度買いしても問題なし。

「無面目」は、莊子の「渾沌、七竅に死す」の話を漢の武帝時代の巫蠱事件にくっつけたもの。渾沌の話は、シンプルなのがいいと思うが、目鼻がついた渾沌が勝手に歩きだして、武帝の道士になり代わるのも、それはそれでアリ。というか、巫蠱事件の話はよくわからないので、組み合わされても問題ない。

太公望伝」は、太公望が、文王と出会うまでの話。だいたい太公望その人が何をしたのかよくわからないのだし、前半生なんか何もわからないのだから、これもこれでいい。それに鈎のない針で魚を釣っていたといういかにも引っ掛けっぽい話はそれだけでは変。だから、いろいろできるのだが、これはおもしろい。

太公望は、渭水のほとりから、商へ、さらに東海にまで行き、周は岐山の麓で、若い頃と同じく鈎のない針で魚を釣っていて、文王と出会ったという話。中国の昔の神が、具体的な姿になっていて、易とか、龍とか、楽しい。酒池肉林の絵(セックスなんかはなく、裸の男女が追いかけっこしているだけ)も、こういうのを見ているのが楽しかったのだろうとか、いろいろ想像できる。さくさく読めるのが何よりありがたい。