動物農場

ジョージ・オーウェル(川端康雄訳)『動物農場おとぎばなし岩波文庫、2009


動物農場』の岩波文庫版。川端康雄訳。

これが角川文庫の高畠文夫訳とどう違うかといえば、まず文体。こちらは、「おとぎばなし」っぽく、敬体で書かれている。これは高畠訳に慣れてしまっていると違和感があるかもしれないが、この小説の元の趣旨を考えれば、理にかなっている。

「イギリスのけものたち」(この訳ではこれ)の詞は、これに限っては、高畠訳のほうがよいと思う。あちらは古文っぽい感じ。韻律もあった。まあ、この川端訳もそれなりによいけど。

この訳の優位は、やはり注。細かいところまでいちいち注がついていて、きちんと意味が取れるようにしてある。この点は後発の利点をフルに活かしている。

また、高畠訳と同じく、巻末にオーウェルの短い文章がついている。高畠訳では、「象を撃つ」と「絞首刑」で、それはそれでよかったが、この訳では、「出版の自由」(つまり初版の序文)と、「ウクライナ語版への序文」。このウクライナ語版への序文は、この本が何を指しているかを著者が直接に語っており、非常に読者の助けになる。また「出版の自由」には、この本がなかなか世に出なかった理由、つまり第二次大戦中のイギリスにおける社会主義ソ連への共感をはっきり述べていて、これにも価値がある。

高畠訳には、開高健が一文を寄せていて、あれは蛇足だった。こちらはそれに相当するものはなく、単に訳者解説があるのみ。この解説もよい。高畠訳は、最初に読んだ訳なので愛着があるが、それはそれとして、この訳があるのはよいこと。読んでよかった。