被差別の食卓

上原善広『被差別の食卓』、新潮新書、2011


同和地区出身で、この問題の専門ライターの著者が、世界各地の被差別社会をめぐってそこのソウルフードを食べるという本。

日本だけでなく、アメリカの黒人社会、ブラジルの黒人社会、ネパールの賎民社会、ブルガリアイラクのジプシー社会を回ってそこのソウルフードを自分で食べてインタビューも取ると言う本。

著者がこの本の取材に20代全部を費やしたと言っているが、確かに非常に手間のかかった本。著者は英語ができるようだが、ポルトガル語や、ジプシーの言語、ネパール語はわからないので、ちゃんと宛になる通訳をつけなければならない。

もちろんイラクブルガリアのジプシーが同じ言葉を喋っているわけはないので、社会や慣習も何もかも別。

食べ物の話が中心だが、それぞれの社会で賎民の立場がどういうものかが話の中心なので、そのことについてもきちんと書いてある。日本やアメリカだと、一応今は先進社会なので、差別といっても簡単にはわからないように行うわけだが、ブルガリアイラク、ネパールはそういうわけにはいかない。そもそも差別は悪いことと言う前提がないので、遠慮なくやっている。

著者は自分が被差別民だと言う同胞意識があるので、それらの社会の中にも抵抗なく入って行っているようだが、なかなか他の人に同じことはできないと思う。

著者が、日本のソウルフードと考えているのは、関西で言う「あぶらかす」。つまり牛腸を油で揚げたもの。これをご飯のおかずにしたり、うどんに入れて食べている。広島でも同和地区には同じ習慣があり自分も食べたことがあるので味がわかるか、当然だが非常に脂っこいもの。食べていると胸やけしそうな味。


どの社会でも食タブーは、ある社会と別の社会を分ける、非常に解りやすい要素となっているので、賎民社会の状態を明らかにするために、食事に注目するのはいいアイディア。

ブルガリアで食べているハリネズミや、アメリカのフライドチキン(これも元々は黒人社会の料理)は結構食欲をそそるが、著者自身も美味しいとは思わなかった料理については、ちゃんとそう書いている。

アメリカ以外は簡単には行く機会がないところばかりなので、非常に参考になった。