ロリータ

ウラジーミル・ナボコフ(大久保康雄訳)『ロリータ』、新潮文庫、1980


やっと読めた。旧訳の方だが。それにしても大傑作。

映画になったものは見てないが、これは映画にしないほうがいい作品。ロリータの魅力は、妄想世界の中で一番輝けるもので、実物を見せられると、かえってそれに縛られてしまう。

主人公で語り手役のハンバート・ハンバートに重ねて読んでいたが、読んでいてほんとうにつらくなる。性倒錯で、本物の犯罪者で、自分はローティーンの女の子に性的興奮は感じないが、ハンバートのロリータに対する欲望と執着は苦しいくらい切実に感じられる。ハンバートは自らを滅ぼし、ロリータも生を全うできないのだが、異常性欲に溺れた人間にふさわしい最期。

読んでいて、「ベニスに死す」を思い出した。こっちは映画しか見ていない。つながっているものはあるし、主人公が「ベニスに死す」は作曲家で、『ロリータ』は大学教授(文学)というのも似たようなもの、主人公に美の要素がないことも同じ。でも、「ベニスに死す」では主人公に自分を重ねることはできなかった。そこが違う。こっちは知識人だが、基本的には変態なのだ。尊敬される要素もない。

自分はこの小説の十分の一も味わえていないはず。訳注を見るとわかる。これは英語が読める人のために書かれた本。しかし、新訳は読むつもり。一度だけしか読まないのはもったいなさすぎる。