巨龍の苦闘

津上俊哉『巨龍の苦闘』、角川新書、2015


中国経済の分析本。この分野では定評のある著者の本なので、期待して買ったが、予想を上回るおもしろさ。

中国経済は「崩壊」のような急速な収縮は起こらないものの、中期的には中央政府財政問題、長期的には少子高齢化と貯蓄率の減少のために、見通しは明るくない。

最近の過剰投資によるバブルは、中央政府の財政がまだ健全なため、中央が地方に資金を拠出すればなんとかしのげる。しかし、その分中央財政の健全性は失われる。高齢化は、日本を15年遅れで追いかけている。一人っ子政策を止めても、出生率が簡単に回復することはない。高齢化が進むと、貯蓄率が低下し、投資水準を維持できなくなってくる。投資に依存する経済成長は維持できなくなり、規制緩和による民間主導の経済成長に切り替えていくことが必要。しかし政治的にそれは難しい。

日本ともある点で似ているが、高齢化まであまり余裕がないので、中国には時間がない。制約条件があまりにも多い中で、そこそこの成長(6%)を維持することは非常に難しく、5%も危ない。

外交政策、戸籍問題、福祉政策などにも言及されていて、多くは納得のいく分析。習近平は、対外関係の改善を本気で考えていて、それには経済関係での提携しかなく、AIIBには数年後の参加を睨んで今から提携事業を作っていくべき、との意見には納得。

中国のような巨大帝国は、方向転換が難しい。習近平への権力集中はそのための助走。それでもうまくいくかどうかを見通すことは難しい。豊富なデータが引用されていて、説得力のある議論をしている。日本でももちょっとまともな中国分析本がそれなりの数ででないものか。