AVビジネスの衝撃

中村淳彦『AVビジネスの衝撃』、小学館、2015


アダルト業界を知悉している著者による、「アダルトビデオの歴史」のような本。アダルトビデオ黎明期から現在まで、アダルトビデオ業界がどういう商売をしているのかということが、流通、監督、女優、男優などから描かれている。

一番印象的なのは最終章。結論はアダルトビデオは産業として終わっているというもの。音楽CDが売れないのと同様に、アダルトも円盤が売れない。デジタル化によるコピーの普及とコピーされたコンテンツがインターネットでばらまかれていることで、もはやアダルトビデオは全く儲からない状態になってしまった。

AKBのような「握手会ビジネス」は、アダルトビデオの世界にもそのまま持ち込まれていて、ファンがついている有名女優はファンミーティングで円盤を手売りして、握手や撮影をさせている。しかしそれができる女優は一握りで、売れた円盤も中古市場に出てしまうから、市場の拡大にはつながっていない。

著者の見立てではアダルトビデオは産業としてもはや終わっている。今後の生き残り策としてあげられているのは、第一に個別化。個人や少人数の製作者が5分程度の短いビデオクリップを作って、配信で流すというもの。これは消費者の非常に細分化された市場に合わせることができるが、製作者はいくらでも拡大できるので、カオスになるだろう。

第二は新市場の開拓。はっきり言うと中国。しかし中国でもコピーコンテンツの流通は止められないので、円盤は売れない。従って握手会ビジネスを中国でやるというもの。中国人は、アダルトビデオ女優を供給できる環境を持っていない(国内の制度的統制と、中国人の文化のため)ので、これは可能性がある。蒼井そらの微博のフォロワーが1500万人いる。しかし、中国で女優が認知されるためには、日本でアダルトビデオが製作され、中国人がタダで視聴できる環境がなければならないのだが、それが可能なのかどうか。ついでに、女性向けAVは、トライアルは何度かされているが、女性の性嗜好は男性に比べて非常に細分化されているので、うまくいかない。

コンテンツ産業はすべて大変だが、アダルトビデオも例にもれない。いまコンビニで売られているエロ雑誌(実質はただのDVDのジャケット)はいずれ絶滅し、アダルトビデオそのものが同じ運命をたどるということ。