NHK問題

武田徹NHK問題』、ちくま新書、2006

つまらない本。どこがつまらないかというと、著者が一番いいたいことらしい「公共放送の公共性とは何か」というメッセージがつまらない。

「反権力」や、「メディアはこうあるべき」という議論を最初に振り回すようなNHK論はつまらない、という著者の問題の見方はいい。この本がとりあげているそれぞれのエピソードもけっこうおもしろい。吉田茂を風刺し続けた三木鶏郎の位置づけ、電波監理委員会の「独立性」、ハイビジョン開発の舞台裏、などなどの話は非常に勉強になったし、示唆するところも多い。

ところが、ロールズハーバーマスを振り回して公共性の議論をはじめるあたりから、とたんにつまらなくなる。はっきり言って、著者がロールズ主義者で、その話を無理やりNHKの公共性の話に持ち込もうとしているにすぎず、話がまるっきり空回りしている。「少数派のための放送」って、少数派はたくさんあるんですけど、「どの」少数派の見解を放送しろと言っているのか?そもそも放送局が映像素材を「編集」していることについてはどう考えているのか?著者があげている問題の大半はネットメディアがそれぞれの見解を流せば解決するのではないか?

そういったことにはおかまいなく、「非国民」のための公共放送論なる未消化の議論を垂れ流すくだりは、つまらないのを通り越えてみっともない。修士論文かなにかのつもりだろうか。そもそも自説を実現するための組織のたて方についてほとんど議論しないままでNHKのあり方を議論しようという姿勢がイタイ。とりあげている素材がおもしろいだけにもったいない。