中世武士の城

齋藤慎一『中世武士の城』、吉川弘文館、2006

中世の「城」とはどういうものだったかを考察する本。これを読むまでは「中世城郭」を戦国時代の半ばまでの防御建築物のイメージで漠然と考えていたが、そもそも「城郭」と「城」も、中世初期まで遡れば、違う概念らしい。

著者の主張は最後の部分でまとめられているが、軍事施設が「城郭」、武士の居館を中心とする政庁が「城」で、二つはもともと違うもの。城は平時の施設で、惣領屋敷を中心に、極楽浄土を象徴する阿弥陀堂と、現世利益を願うための観音堂を付設し、その周辺に一族や家臣の屋敷をおいたもので、軍事的な要害を設けることは意図的に避けられていた。城郭は、要害である軍事施設だが、あくまで臨時のものという位置づけで、恒久的な施設とは考えられていなかった。それらが一体化されるのは、戦国時代以後のこととされている。

戦国時代の中世城郭がそれ以前からずっとあったと思っていたので、かなり頭が混乱した。武士の居館も、堀や櫓のような防備施設を当初から持っていたと思っていたが(実際にそういう図版ののった本を見た)、この理解もどうも事実とは違うらしく、こちらもけっこうおどろいた。

「城の起源」を探究した本で、自分が求めていた、「中世城郭とはどういうものか」という趣旨ではなかったのだが、これはこれでおもしろかった。次は戦国時代の中世城郭の本を読みたいのだが・・・。