中世的世界とは何だろうか

網野善彦『中世的世界とは何だろうか』、朝日新聞社、1996

200ページ余りの小著だが、海民の世界、武士団と南北朝期の世界、職能民、遊女、賤民、市場、交易の世界、名前と系図についての考察の四つのパートからできていて、網野史学の世界が簡単に一望できるようになっている。

どのパートもおもしろいのだが、自分的には最後の名前と系図についての考察が一番おもしろかった。名前の由来による分類からはじまり、苗字、氏名、姓の概念と用法、系図の分析による族集団の構成の地域による違いは非常に勉強になった。日本社会は男系の結合だけが重要だと思っていたことが自分の誤解だということもわかった。

手順を踏んだ歴史研究であって、歴史学徒ではない者にもとてもおもしろく読めるところが網野善彦の本だが、この本もそういう好著のひとつ。一般読者を想定した本なので、ていねいにふりがながつけてあることもありがたい。