「正しい戦争」という思想

『「正しい戦争」という思想』山内進(編)、勁草書房、2006

正戦論についての本。入門書と言うよりは少しレベルが高い、基本書。中世スコラ学派の正戦論(聖戦論)からはじまって、キリスト教イスラム教の正戦論、現代のアメリカ、ヨーロッパにおける正戦論、国際法的な検討などひととおりの内容は網羅している。

日本語でのこの分野の文献が少ないこと(個別の学者のモノグラフィーは別)を考えると貴重な本であることはたしか。しかしこの内容の本にありがちなこととして、最近のアメリカの行った戦争の糾弾に意見が偏っている。特に国際法についての章は、そういう著者の立場が露骨。まあ日本の国際法学者の多くにそういう傾向が強いので、仕方がないと言えば仕方がない。

アメリカにおける正戦論を取り上げる章は、いろいろな意見を拾っていておもしろかったが、新保守主義の立場など、取りこぼしているところも多い。それに日本国憲法の立場など、アメリカにおける正戦論に全く関係ないと思うが・・・。

問題はいくつかあっても、やはり貴重な本であることはたしか。特に正戦論の歴史的発展についての部分は、類書がほとんどないのでまずこの本にあたる必要があるだろう。