平和論にたいする疑問

『平和論にたいする疑問』福田恆存文藝春秋新社、1955

福田恆存の時論集。表題になっている進歩主義者の平和論批判は、いま読むとごくあたりまえのことを言っているだけで、それが大きな反響(反感)を呼んだということはなかなか信じられない。そもそも著者は「平和を求める考えや気持ち」を批判しているわけではなく、問題を何でも「戦争か平和か」の二分法に還元するやり方を批判しているだけだからである。

しかしそれが大きな反感を買った理由も理解できる。「こともあろうに文化人たる者が平和を実現しようとする運動を批判するとはなにごとだ」というわけである。いったん自分の立場を絶対善と思い込むと、それ以外の立場は絶対悪だということになる。核兵器反対とかを言っている人などによくあることだが、このパターンでものごとを考える人はいまでも多い。著者にとっては、そういうものの考え方こそ批判の対象だったわけだが、それがいっこうに理解されないことはかなりのストレスになったようだ。

ほかに興味深い文章は国語問題に関するもの。残念ながら自分には歴史的かなづかいで文章を書くことができないのだが、著者がなぜ歴史的かなづかいの継続を主張しているかということはよくわかった。考えてみれば自分自身の国語力もずいぶん怪しいものだ。やはり本の読み方が足らないのである。

福田恆存は、奇矯でない議論をきちんとした文章でまっすぐに書いた人である。この本に書いてある内容にしても時代遅れになっていない。もっと読まれるべき人だと思うのだが。