民権と憲法

『民権と憲法』牧原憲夫、岩波新書、2006

岩波新書「シリーズ日本現代史」の2巻目。1巻目に比べるとそれほど奇矯なことはいっていなくて、穏当な歴史概説書という印象。
しかし問題もある。民権運動について、「政府、民権派」に「民衆」を加えて三者の関係として見るべきだといっている。民権派が必ずしも民意の代表者ではないといいたい著者の考えはわからないでもないが、それなら「民衆」をひとくくりにすることはいいのか。地租問題にせよほかのことにせよ、「民衆」はさまざまな利害の集団をひとくくりにした便利な用語に過ぎず、政府、民権派と同列に対置される概念にはならないのではないか。
またアイヌ琉球の問題をことさらにとりあげ、これらが「内国植民地」だといっている。しかしその後で「地方にも中央の文化が無理やり押し付けられたから、地方も植民地のようなものだった」という。しかし「国語」になったのは、「中央の文化」ではなかったのだから、そもそも「本国」「植民地」のアナロジーをここに無理やり持ち込むのは無理である。こういう「植民地主義批判」にはよくこの手の強引な理屈付けが見られるが、この本もその問題を免れていない。
とはいえ、教育制度と家族を扱った5章、近代天皇制の成立を扱った6章はけっこうおもしろかった。全体としてはそこそこ読める本だと思う。