右翼と左翼

浅羽通明『右翼と左翼』、幻冬舎新書、2006

専門家ではない教養人としての道を歩むことを自ら任ずる著者が、右翼と左翼とは何かという問題を歴史的起源から、現代日本におけるその位置づけにいたるまで解説した本。著者が巻末でいうように、イデオロギーに関する専門的著作はほとんど参照されておらず、新書をはじめとする一般書をベースに書き下ろされている。それだけにちょっと食い足りない箇所も目立つ。右翼と左翼の歴史がフランスからはじまるのは常識だから、そこから話をはじめるのはいいが、ヨーロッパでもイギリスはかなり事情が違うし、アメリカはさらに違う。国ごとのイデオロギー対立のあり方にはかなり違いがあるのが当然なのだから、一般化に際してはもう少し慎重であるべきではないかと思う。また右翼=ナショナリスト、左翼=インターナショナリストという図式も、あくまでマルクス主義の理念をベースに考えた場合のことで、自由民主主義国家間の同盟関係、社会主義諸国におけるナショナルな社会主義の問題を考えれば、簡単な結論は出ない。新書でそこまで望むにはムリがあるとは思うが。
本書の眼目は、日本における右翼と左翼の位置づけ、それも戦後、90年代以降の現代におけるそれについての論評にある。日本での左右対立が結局は、同じ穴のむじな同士の些細な対立にすぎなかったこと、高度成長期こそナショナリズムの隆盛期だったこと、冷戦期以後の「ウヨク」「サヨク」化、といった問題に対する著者の切れ味は鮮やか。そういう意味で、この問題に知識が薄く、しかもウヨ、サヨレッテルに感心がある読者に特にすすめられる本。