夜は短し歩けよ乙女

森見登美彦夜は短し歩けよ乙女』、角川書店、2006

たまたま図書館で見つけて借りてきた。著者の名も内容もまったく知らないで手に取ったが、これは拾い物。おもしろい。それにうまい。先斗町の南から、満艦飾の三階建て電車がやってきたら、それは驚く。もちろん木屋町通りは電車なんかが通れるような幅はないけど、この電車がカバーの装丁になっている。見ているだけでたのしい。話はなんというか伝奇小説とでもいえばいいのか、この電車のような調子ですすむ。京都の、それも京大のあるあたりの地名が頻出するので、知っている人にとっては情景が全部目に浮かぶ。知らないとたのしさが三分の一くらいそこなわれるような気がするが。
著者は京大農学部を出て、修士を終えて小説を書き出したということだが、これだけデタラメな世界をつくって、きちんと話をおさめる手腕はたいしたもの。今年の本屋大賞の2位だというのは今日知った。サイトで見たら、大賞の佐藤多佳子『一瞬の風になれ』とは非常に僅差。そっちも読まねば。しかしその前にこの著者のほかの本を探さねば。