庭園日本一 足立美術館をつくった男

足立全康『庭園日本一 足立美術館をつくった男』日本経済新聞出版社、2007


足立美術館の創設者、足立全康の自伝。もとは自費出版で、『九十坂越えてますます夢ロマン』という題だった。これは本人がつけたものだろうが(でないと、こんなダサいタイトルはつかないはず)、改題されたおかげもあってか、買った本は五刷。

しかし、内容的にはもとのタイトルのほうがあっており、半分くらいは自分の商売の履歴。この人、貧窮家庭に生まれて、裸一貫から財をなした人。美術館は、人生の後半になってからはじめた事業。したがって、前半生は商売のみ。

教育は受けていないが、賢く、情熱のある人。金儲けに熱心で、女好き。この延長線上に美術好きもある。

偶然から横山大観が好きになり、ビジネスも画商に転向し、商売と個人の好みを両立させている。美術館の建設はほぼ最後の事業。足立美術館は1970年に創設されているので、もう50年近くになる。あれだけのコレクションと庭をもっていて、日本全国に名が轟いているが、この状態に持っていくことがたいへんなこと。

美術館の経営については断片的なことしか書かれていないが、基本的には事業会社の収益と、会社、個人の寄付だと書かれている。これがわかるといいのだが、できない事情もあるだろう。

読んでみると、この足立全康という人そのものが、非常に魅力がある人だとわかる。欲が深いだけでなく、志があり、自分を律している人。また、失敗しても何度でも立ち上がるメンタルの強さ、人を憎むことが薄い善良さ、いろいろと人としての美点を兼ね備えている人。

こういう人なくして、田舎にすぐれた美術館はできないだろう。日本の偉人というべき人。