ナセル

池田美佐子『ナセル』山川出版社、2016


山川のリブレット、これは「ナセル」。近代エジプト史はぜんぜんわかっていなかったので、取り付くのに便利な本。

ナセルは基本的に軍人で、政治家にはあとから流れでなったという人物だが、リーダーシップやカリスマはあるが、実務ができるかというと、こっちはあまりできていない。それなら実務ができる人を使えなければいけないのだが、この本にはそこまできちんと書いていない。

しかし、スエズ国有化までは当たっていたからいいとしても、アラブ連合は失敗で、国内の社会改革も、意図としてはいいが、それほど結果は出ていない。大失敗になった第三次中東戦争も、もともとエジプト側から攻撃する計画はもっていなかった。それなのに、イスラエルを挑発して、結局大敗しているので、これはナセルの失敗。

望みは大きいのに、実行段階が失敗だらけ、というのは、発展途上国の指導者にはよくあること。ナセルは、そこが失敗だったが、最初の大風呂敷がいまでも多くの人の心を掴んでいることと、途中で挫折したこと、後任の指導者の人気がないことで、いまでも英雄であり続けているというもの。あまり、よいパターンではないと思うが、それがエジプト社会。