朝日ぎらい

橘玲『朝日ぎらい』朝日新書、2018


これは、政治的、社会的イデオロギーを何が決めているのかという本。著者は心理学や生物学の本をよく読んでいる人なので、その分野の知見が豊富に反映されているが、ただの解説本というわけではなく、オリジナリティがある本になっている。

まず著者が主張することは、先進国社会は、すべて「リベラルな」社会になっているという事実。これはトランプ現象というようなものを考慮しても事実で、先進国社会も40年前くらいの時期を考えれば、現在に比べると非常に保守的あるいは差別的、暴力的な社会だった。現在自分が保守的だと思っている人も、数十年前に比べると明らかに「よりリベラル」である。

そのうえで、人間の政治的、社会的イデオロギーを決めているのは、ほとんどが遺伝的影響と、生育環境とくに友人関係だという研究結果を引用している。他の特性と同じように、親の教育はほとんど影響を持っていない。知能や性格に遺伝影響があるから、イデオロギーにも間接的な影響がないはずはないとおもっていたが、やはりそう。

簡単にいえば、「リベラルのほうが賢く、保守はバカ」ということ。明らかにリベラルは高い知能を持ち、高い教育を受け、所得も高い。現在の社会での、イデオロギーの二極化の少なくとも部分的な原因は、、社会そのものの格差の増大と分極化。

政治的、社会的イデオロギーも3つくらいの因子でだいたい説明でき、それは右派の権威主義、社会的支配指向性、宗教的価値観。ナチズムなんかもこれで説明できるだろうし、右翼に傾いている者の傾向を見ていると、これは納得。

しかし、政府のイデオロギー的傾向はもうちょっと複雑で、じつは「安倍政権はリベラル」。国内の右派をつなぎとめるために、右派的な面を宣伝しているが、国外に対しては右派と取られる面はあまり出さないようにしているし、国内でも「働き方改革」は本来左派が主張しそうなことであり、安倍政権は左派のアピールポイントを上手にパクっている。

終わりの方でわかるのだが、著者自身はリベラル、というかリバタリアン。日本ではリベラルが左派と同じような意味で使われていて、リバタリアンは左派から嫌われているのだが、リバタリアンこそ、本来リベラルの中心的な存在であり、それは右派とは違うはず。これがなかなか理解されないことはざんねん。