チャーチル

木畑洋一『チャーチル イギリス帝国と歩んだ男』山川出版社、2016

山川の世界史リブレットに入っているチャーチル伝。チャーチル帝国主義者としての側面が強調されている。

チャーチルは、1874年生まれ、1965年没なので90歳。時代を考えても長命な人。チャーチルの人生が英帝国の最盛期から没落期にあたっていて、たしかにチャーチルは英帝国とともに生きた人。

学校の優等生ではなく、サンドハースト王立陸軍士官学校に入ったのも、成績がよくなかったから。しかし頭はよく、本もたくさん読んでいたので、知的な能力は非常にあった人。あと、幸運は陸軍に入ってからインド勤務になったこと。これで、仕事をしながら自由な時間が得られ、その間に読書と思索にふけることができた。これはラッキー。

しかし、後の人生は浮き沈みの繰り返し。アフリカの戦争への参加、1900年に下院議員になってからの政治家人生は、転変が激しく、沈んでいたときも長かった。それでも腐らずにやっていけたのは、チャーチルの意志の強さのおかげ。

第二次大戦前や対独戦での断固とした姿勢、ソ連と妥協する柔軟さ、いずれもチャーチルの意志と頭脳のなせるわざ。といっても、生涯帝国主義者だったことには変わりはないので、インド支配には最後までこだわっていた。

51年に首相に再任されてからは、アメリカへの渡航が多く、それは首相官邸にいたくなかったから(半分くらいは船旅)。もう老いていて、政治への意欲を全部出すことができなかった。身体も動かなくなっていたのに首相の地位には強引にとどまった。晩年は回顧録の執筆に専念。

特殊な人で、平和な時代だったら首相になることはなかっただろうし、晩年はふつうの人。しかし、回顧録が書けたのは、知性と文章に対する情熱の現れだろう。特殊な偉人。