共産主義批判の常識

小泉信三共産主義批判の常識』新潮文庫(響林社)、1949


有名な本なので、一度は読んでみたいと思っていたが、これは著作権切れか、復刻版が出ていた。これは名著。

小泉信三、基本的にリベラリストで反共の人だが、この本の共産主義批判は、包括的で、議論もしっかりしており、マルクスをよく読み込んでいる。現在読んでも、まったく古さを感じさせない。著者は、「常識程度の事を記した」と言っているが、専門家の議論として成立しており、専門家でなければ、ここまできちんと批判はできない。

批判の範囲は、非常に幅広く、ドイツ社民党のエルフルト綱領、社会主義計算論争、労働価値説、搾取論、一国社会主義論、民族主義など、社会主義体制の根幹部分は全部カバーしている。

しかも、記述の仕方は平易だが、マルクスの核心をついており、そんなに長い頁数は使っていないのに、社会主義体制がなぜ成り立たないのかということを明白に斬っている。よく読まれた本だが、当時の共産党員や社会主義に同情心を持っていた人たちからは、反動ブルジョワの寝言くらいに扱われていた。

今どきの安い右翼ではなく、一番共産党が元気だったころに立ち向かっていた人は、このくらいできなければいけなかったのだろう。小泉信三の学問的な業績はよく知らなかったが、やはり只者ではなかった。