日本の醜さについて

井上章一『日本の醜さについて 都市とエゴイズム』幻冬舎新書、2018


井上章一の新刊。これは専門の建築史についての本。簡単に言えば、「日本の建築は町としての統一性がまったく考慮されておらず、景観への配慮は皆無。これは日本人が集団主義だという、巷間流布されている話とは全然違っており、そもそも日本人が本当に集団主義なのかどうかも疑問」という話。

非常におもしろく読んだ。実際、日本で町としての景観をルール規制することは非常にむずかしく、京都でも高さ制限にはうるさいが、外面のデザインを規制することはあまりできていない。他の都市はなおさら。家や建物のデザインを町として統一しようという考え方自体がほとんどない。

明治期以後に、城が陸軍所有に移管され、その後なし崩しに陸軍が自分に都合のいい建物(西洋式)を建てた大阪城の経緯や、なぜフローリングの床が普及しつつあるのに、土足で部屋に上がれないのかとか、いろいろとおもしろい話が満載されていて、非常に楽しく読めた。

特に、不二家のペコちゃん、くいだおれ人形、薬局のカエルや象の人形、ケンタッキーフライドチキンの人形は、子供を引き寄せるためのもので、カーネルサンダースの人形は、アメリカやヨーロッパにはないというのは、言われてみればそのとおりで、新鮮な発見。子供向けの人形が店頭に堂々と置かれることは、アメリカやヨーロッパでは起こらないだろう。

著者は坂口安吾『日本文化私観』での説に非常に批判的。著者の議論が、ときに坂口安吾と同じように扱われることにも反発している。坂口安吾の論はおもしろいなとは思っていたが、たしかに、あんなことを言ったら、「文化などいらない。現状の必要性に合わせて、適当にやればそれが文化になる」ということになってしまうので、建築史家があれを擁護することはできないはずだし、文化(時代とともに形成されてきたもの)を重んじる立場に立つ人があれを支持することはおかしいはず。

新発見ばかりで、読んでいて楽しかった。この本でいろんな議論が起きていくといいなと思う。