チンパンジー

中村美知夫『チンパンジー ことばのない彼らが語ること』中公新書、2009


著者は、チンパンジー研究者。非常におもしろい本。

野性のチンパンジーに貼り付いて、ずっと観察を続ける仕事。チンパンジーは、ヒトに見られていることを知っているのだが、その状態でヒトを避けないようにするために、とても長い時間がかかる。チンパンジーが住んでいるアフリカの奥地でずっと生活していなければ、観察はできない。

チンパンジーの、攻撃行動、性行動たついては多少読んだことがあったが、意味のないおしゃべり、実際には毛づくろいや、所有の概念もある。しかし、それらがヒトの社会と同じような役割を果たしているかどうかは、よくわからない。チンパンジーとヒトは言葉で会話することはできない。

チンパンジーひ、ヒトの遠い親戚。チンパンジーは、ヒトではないし、ヒトになることもないが、彼らがしていることは、部分的には、ヒトの遠い祖先と重なり合っている。今の学問は、ヒトと他の生物を完全に二分するという立場に立っているが、チンパンジー研究は、その土台を揺るがせるもの。ヒトそのものではないが、ヒトと共通点があることを考えなければ解釈できないことがたくさんある。

ヒトのしていることが、どこから来たのかを考えさせてくれる本。これをさせてくれるのは、著者のチンパンジーに対する誠実な態度。