劇画ヒットラー

水木しげる『劇画ヒットラーちくま文庫、1990


水木しげるの昔から言われている名作。このページ数で、よくこれくらい詰め込んだということもあるが、やはり水木しげるの画力。ヒトラーや周辺の人々は、抜けた絵で描き、そうではないものは精密に描き込んでいる。この対比が非常によく、ヒトラーをここまで掴んでいる作品は、そうそうはない。

1971年に連載されていた作品なので、ヒトラー研究はその時の水準に従っているが、青年時代から最後まで、きちんと描ききっている。ヒトラーの側近だけでなく、スターリンモロトフ、ムソリーニ、チャーチルら、外国指導者も非常に特徴的で、すばらしい。

事実の伝記は、この後に研究の蓄積を経て改善されたものが山のようにあるが、絵が人の本質をつかんでいるということで、これを超えるものはかんたんには出ないだろう。作者が、ヒトラーに変な感情をもたず、突き放して見ているところが大切で、これがなければいけない。

今頃ではあるが、読んでよかった。