安全保障は感情で動く

潮匡人『安全保障は感情で動く』文春新書、2017


この著者、やたらと多作な人だが、そんなにおもしろいことを書くわけではないので(元自衛官と言っても、三佐でやめているので、それほど深いことを知っているわけではない)、あまり読んでいなかった。この本もそんなに深いことを言っているわけではないが、書いてあることはだいたいあたり。

取り上げているのは、「見捨てられた人々」「トランプ」「北朝鮮」「米中衝突」「戦争と人間性」というような話。そんなに新しいことは書かれておらず、「人間は感情で動いていますよ」というようなもの。それはそうですねということだが、こういうふうに並べてみると、タイトルの通り、だいたいの戦争や紛争は感情で動かされた結果として起こっている。

これをもうちょっと絞って深く掘り下げると(例えば、米中の「感情」的亀裂とか)おもしろいのだが、そこまではできていない。まあ、そこまで書ければすごいけど。それでも、敵味方とは結局のところ感情で、戦争の決断も多くは感情によっている。それがこじれているのがこれまでの歴史と今の世界。社会的に大きな変化が起こる時には、感情も大揺れしているということだろう。

安全保障をこれで説明しようとする人は少なかった(だいたい力と利益)ので、この議論には価値はある。著者よりもっと別の人が、この同じテーマに取り組むとよいのだけど。