日本人の9割が知らない遺伝の真実

安藤寿康『日本人の9割が知らない遺伝の真実』SB新書、2016


これは非常におもしろかった。知能、性格などに対する遺伝の影響について論じた本。著者は慶應義塾大学教授(行動遺伝学、教育心理学)。

著者が使っている方法は、「双生児調査」。一卵性双生児と二卵性双生児を比較すれば、遺伝が行動にどの程度影響しているかどうかがわかる。当然十分なサンプル数が必要だが、1万組くらい集めているので、そこは大丈夫。

知能はともかく、性格も遺伝するのか、知能のうちで遺伝で決まるのはどのくらいかということがわかっていなかったのだが、著者によれば、知能は50%から70%くらいは遺伝、20%くらいが共通環境(同じ集団の間で共通性を作る方向に働く環境)で決まり、それ以外の要素は10%から30%くらいを左右できるだけ。つまり、知能は、かなりの程度は遺伝、あとは家庭環境とかで決まっている。

性格はどうなのかというと、これも30%くらいは遺伝。性格がどうやってパターン化できるのかというと、好奇心の強さ、勤勉さ、外向性、協調性、情緒不安定性の5要因でだいたい測れる。そんな簡単なものでなんとかなるのかと思うが、この5要因が他の行動と非常に相関が高いのだという。性格要因のうち、知能と相関があるのは、好奇心の強さのみ。

知能、性格だけでなく、身体(身長、体重)、学業成績、才能(音楽、美術、外国語、スポーツ)、精神障害、物質依存、問題行動など、あらゆる行動に遺伝要因が関係があり、不倫のような、後天的に決まりそうなものでも、遺伝で10%くらい決まっている。

早期教育はあまり関係なく、年齢が上がるほど遺伝の影響が強くなる。家庭や学校から離れるほど、本人の遺伝的要素の影響が強まる。経験値で決まるというようなものだけではなく、そもそも経験値も仕事が好きなのかどうか、どのくらい環境に適応できるのかということに影響されているので、それも含めて遺伝の影響はあるということ。

もちろん、本人の努力がどうでもいいということではないが、本人が好きでないこと(それも遺伝の影響)を、無理やり強制したらできるようになるという考え方そのものが問題。今の学校制度は、努力すればみんなできるようになるという前提に立つが、そんなことはないというのが著者の結論。

著者はこの分野の専門家だが、橘玲言ってはいけない 残酷すぎる真実新潮新書、2016という本が、遺伝の影響を広めていて、この本がベストセラーになったから便乗して出しましたとはっきり書いている。これはおもしろそうなので、読んでみるつもり。