図解詳説 幕末・戊辰戦争

金子常規『図解詳説 幕末・戊辰戦争』中公文庫、2017


著者は、1916年生まれ、2000年没。陸士49期、後に自衛隊に入り、富士学校特科副部長などを務め、退役後は文筆生活に入った人。『兵器と戦術の世界史』は読んだが、こっちは幕末・戊辰戦争の本。

18世紀末のロシアの南下政策から書き起こして、箱館戦争が終わったところで擱筆。政治史などの部分は薄く、ひたすら戦史。特に武器の変遷と戦術をていねいに書いている。

戊辰戦争がどのように展開したのか、いい加減にしか知らなかったが、これでだいたいわかった。列藩同盟側は負けゲームとはいえ、官軍側も簡単に勝ったわけではなく、かなりの苦戦。

この戦争自体が、政治工作がきちんとできていれば、回避できたもので、それができなかったのは、薩長特に長州が新政府安定のためには戦争が必要だと考えていたため。大村益次郎の戦略も、必ずしも当たっていたところばかりではなかった。大村は江戸にいて、現地の戦況を全部把握していたわけではなく、戦略がまずかった部分は伊地知、板垣ら、現地指揮官が埋めていた。しかし、結果は勝ったので、戦略の失敗は無視されて終わったというのが著者の評価。

これ以外に、幕末の新型武器や洋式戦術への幕府や藩の対応が細かく書かれていて、これがよかった。先見の明がある人がいて、金があったところがきちんと軍備増強ができていた。薩長側が戦争を早くしたがっていたのは、これを見ると当然。遅れるとすぐに幕府側に追いつかれたはず。

若松城の攻防(会津側は善戦したが、1ヶ月で落城)ほか、細かいところもおもしろかった。政治史だけではわからないところ。