日本人とキリスト教

井上章一『日本人とキリスト教角川ソフィア文庫、2013


日本でキリスト教がどういう仕方で受け止められていたかという歴史の本。といっても、キリスト教伝来の本筋とか、明治以後の宣教師による伝道とか、本流の話はほとんど扱われておらず、中世末から明治くらいまで、日本人がキリスト教にどういう態度を取っていたかということを、裏面から描き出すという本。

景教伝来の碑が高野山にある由来(この碑ができたのは、明治末)、江戸時代の文筆家がキリスト教のことをどう言っていたか、仏教と神道が自らの起源とキリスト教をどのように結びつけていたか、日ユ同祖論やプレスター・ジョンがらみで宗教の伝播がどのように解釈されていたか、という4つの章にからめて、ネタが披露される。博学な著者のことなので、どこからこんなものを探してきたのか、見当もつかないが、いろいろなネタがつながっている。

歴史研究が確立する前には、今ではネタ扱いしかされないようなことでも、みんな真面目に信じていたことが多かった。特に宗教関係は、「自分の教えが1番えらい」という考え方があるからか、「日本神話がキリスト教に影響した」とか、適当なことが実際に言われていた。

日本人のキリスト教受容がなぜうまくいっていないのかという関心で読み始めたが、そういうことは書いていない。しかし、ネタはどれも非常におもしろかったし、明治以前の日本でキリスト教がどのように見られていたかについて、自分がぜんぜん知らなかったこともわかって、ありがたい。