アナキズム入門

森元斎『アナキズム入門』ちくま新書、2017


著者は、大学の非常勤なんかをしながらアナキズム研究をしている人。取り上げているのは、プルードンバクーニンクロポトキン、ルクリュ、マフノ。前の3人は普通だが、後の2人は、著者の関心で取り上げた人。

19世紀から20世紀始めにアナキズムを持ち出したのは、ちょっと変わった人。それをいえば、社会主義者は全部そうではないかということだが、その中でも、アナキズムとは普通は言わない。ちょっと考えれば、それは夢想の産物。それをわざわざ言ったのだから、奇人。

ここに取り上げている人は、全部、人としては魅力のある人。そうでないと、アナキズムとか言わないだろう。他の社会主義者と論争しなければいけないので、学問はさんざんしていたとはいえ、ここまでついていく人がいるのは、書かれたもの以上に個人の魅力があったからだろう。

現実に革命をするという話になると、アナキズムは弱すぎ。組織化の方法論がない。マフノのように、軍隊を実際に率いていた人でも、組織に食い込んで動かしていくことはできない。ロシア革命以後は、アナキズムは旗色が悪かったが、それはソ連社会主義に潰されただけではなく、組織的な社会主義の代替案にはならないものだから。

著者もかなりいい人(人間性に楽観的でないと、アナキズムはできない)だと思うが、21世紀になってから、「なぜアナキズムが現実にできないのか」「アナキズムと似たコミューンはうまくいかない理由」について、あまり考えていなさそうなのはどうかと思う。本を読んで空想するのは、個人の趣味としてはいいが、それで人を動かそうというのであれば、ちょっとは過去の経験というものを考えないと。付き合ってみれば、たぶんおもしろい人だろうから、残念なこと。