お寺さん崩壊

水月昭道『お寺さん崩壊』新潮新書、2016


著者は、「高学歴ワーキングプア」の著者。福岡県で浄土真宗本願寺派の寺の副住職を「兼業」している。

人口減少以上のペースで檀家が減っているのだから、寺がなくなるのは当たり前。しかし、この本の価値は、寺の経営というものがどういう要素で成り立っていて、どのくらいの檀家があれば専業でできるのか、どこが「廃寺」の分岐点になるのか、具体的な数字を挙げて示しているところ。

檀家の数は、300軒は必要。檀家からの収入は、葬儀や法事のお布施と年会費で、檀家100軒につき、400万円程度。檀家300軒だと、1200万円になるが、この数だと住職1人ではできないので、僧侶はもう1人必要、その他に事務の手間、伽藍の維持費、法要の経費、宗派への上納金を出さなければならないので、住職の所得はこの3分の1程度。著者の寺は檀家150軒で、著者の父親の所得は年額200万円という。

これでは食べられないので、墓地、墓石販売、駐車場経営を行うか、教員、公務員などの兼業でないとやっていけない。それでも、法事はともかく、葬儀や通夜は予定が決められるものではないので、兼業も厳しい。

教員や公務員をできるのはましなケースで、ガソリンスタンドのバイトとか、非正規雇用で働きながら、同時に他の寺の手伝いもするというようなことは田舎では当然。

家の墓という概念が薄くなれば寺檀制度もなくなるし、人口減少社会では、家の墓を維持することはできないので、これは必然。廃寺にしても、手続きを踏むと多額の費用がかかるので、実際には放置されることが多いだろう。過疎地の寺はどうにもならない。