実録・北の三叉路

安宿緑『実録・北の三叉路』双葉社、2015


著者は、在日朝鮮人、30代、女性。朝鮮大学校を卒業して、総連の出版報道部門に勤務した後退職し、現在はフリーの編集者、ライター。

朝鮮学校を初級から高級、大学校まで通して卒業し、総連勤務で、記者として北朝鮮にも何度も訪問しているので、完全に総連社会の中の人。この本は、ブログ記事などをまとめたもの。

朝鮮学校朝鮮大学校の内部、北朝鮮にいる著者の親族、取材で出会った北朝鮮の人々、北朝鮮パスポートで外国に行こうとした時の経験などが主な内容。

30代と書いているので、1970年代後半生まれ、小泉訪朝の際にはすでに総連機関紙の記者だったと書いているので、そのくらいだろう。小泉訪朝が総連や在日社会に非常にインパクトがあったことは大きく書かれている。

著者は、総連社会の内部でははぐれもので、それほど政治的忠誠心を持っていないようだが、中級学校までは、まじめに学校の価値観に順応していていて、模範生だったので、高級学校では学習組のメンバーに選ばれている。著者によれば、学習組は、「教師の前でだけ優等生ヅラをする人間」の集団だという。

朝鮮学校に通って、日本社会に生きる人間だと、「祖国と民族」「日本人」「家族や家系」「在日」「それらのどれでもない自分」という複数のアイデンティティが同居して、そのどれかに自分を合わせているが、おとなになってからどれかのアイデンティティが欠けていると、「こじらせる」ことになりがちだという。北朝鮮批判に会うと、自己卑下になるか、怨恨や反発心自体がアイデンティティになってしまう。これは非常に納得する話。

この辺の微妙なところがわからないと、総連社会はわかりにくいだろう。産経のヨタ本を読んでまじめに信じていてもしかたがない。当事者の言っていることをまじめに聞かないとダメだという話。